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第9話

「俺、如月が言った通り中学の時荒れてたんだよ。そんな俺を心配して、塁はいつも一緒にいてくれた。…元々ケンカ売られやすくて。今まではスルーしてたけど中学からやり返すようになって…気づいたら、俺と塁はここら辺のツートップって呼ばれてた。」 どうすればいいかわからなくて始めた喧嘩。 荒れに荒れまくってた中学生活。 塁しか俺にはいなくて、でも塁には俺以外にも大切な人がいるのが少し虚しかったっけ。 一度も塁には言わなかったけど。 「なんでわざわざ喧嘩始めたんだよ。…これはあくまで俺の勘だけど、お前利益のない行動とか意味のない行動取らないだろ。……ここ?一番痛いの。」 ギュッと足首を押した如月に頷く。 如月は俺が頷いたのを確認して湿布を貼った。 湿布で集中的に冷やされるとジンジンして痛いな…。 「別に。俺はそんなに考えてない。……ただ、喧嘩を始めたのは、母親が死んだからだけだし。」 如月は俺のことを馬鹿にするか? どんだけ母親好きなんだよって。 ――むしろ逆なんだけどな。 多分、母親が死んだのは一つのきっかけに過ぎなかった。 あのタイミングで母親が死んでなかったとしてもきっと。 俺は喧嘩をしてたと思う。 どんなに足掻いたってあの日は来てたはずだ―― 黙り込んだ俺を見て、如月が口を開いた。 「父親は?あと…兄弟とか。止められたりしなかったのかよ。」 「兄弟はいない。父親も…いないし一度も見たことない。」 そうか、と如月が目を伏せる。 何を考えているのかはわからないけど、俺のことを考えてくれてる気がして嫌な気はしなかった。 「はい、できた。これでいいだろ。…怪我しないよう気をつけろよ。」 ポン、と俺の頭に手を乗せて如月が微笑む。 ――かと思えば、背筋が冷えるような、何か嫌な感じがする笑みを浮かべた。 「な…なんだよ。」 「これ、なんだと思う?」 笑顔で俺の目の前にイヤリングを差し出す。 なんで如月(コイツ)がこれを持ってんだよ? 風呂上がったら無かったけどでも…なんでよりによって? 「俺の!返せよ!」 キッと睨みつけて勢いよく立ち上がって奪い返そうとする。 左足首が少し痛むけど、それどころじゃない。 「んーそーだなぁ…。」 如月は楽しそうに話ながらギュッと俺の右肩を押した。 すべてが突然のことで、不安定だった俺はそのままソファーに押し倒された。 「なんだよ!?退けって!!」 俺の上に馬乗りになった如月にじっと見つめられる。 筋肉付けたってΩの俺の力はβやαには敵わない。 …なんなんだよ、コイツ。 「なに――」 なにがしたいんだよ、と俺が言いかけた言葉は口にできなかった。 じっと俺を見つめたまま。 如月は俺の口を塞いできた。 なっ………!? なんでキスされてんだよ!? あー、これはあれか? 返す条件がキスだったとか? 頭だけは謎に冷静で、如月の行動の理由を考えられる。 ――考えられたんだけど。 長い長い長い!コイツ、俺のこと殺す気か!? 信じられないほど長い時間、キスをされて苦しくなる。 慌てて如月の胸を叩く。 そんな俺を見て、如月はようやく俺が苦しんでることに気づいたらしくキスをやめた。 「…おまっ……なが…すぎ…酸欠…なんだ…けど…」 はぁはぁと息を吸う俺を見て、如月は楽しそうに笑った。 「キスをしてるときは、鼻で息を吸うんだ。お前、もしかしてキス初めて?」 本気で苦しんでる俺を馬鹿にして、茶化すように聞いてくる如月を睨みつけ吐き捨てる。 「残念ながらファーストキスじゃねぇよ。だセカンドキス。…こんな長い、人を殺すようなキスは初めてだけどな。」 ファーストキスは唐突の事故で、セカンドキスはなんなんだか。 ってか、こんな冷静に言ってる場合じゃない。 なんで俺はキスされたんだよ。 「…へぇ以外。ま、でも男とは初めてだろ?」 少し不満そうに如月が口を開いた。 …俺、好きな相手とキスしたことないんですけど? 「初めてじゃない。…別にどうだっていいだろそんなこと――って、おい!?」 初めてじゃない、俺のその言葉を聞いて如月が不機嫌になったのがすぐにわかった。 不機嫌になったαの、如月のフェロモンを感じる。 コイツ…やっぱりα…‼ αのフェロモンを嗅いだのは久しぶりだ。 でも、発情期の来てない俺には対して問題はない。 いくら相手が上級αだろうが発情を引き起こせないから。 唯一の問題といえば、Ωである以上αの圧には敵わないってことくらい。 動けなくなった俺を見て如月は少し考えた風にして余った包帯に手を伸ばし俺の両手をそれで縛った。 なに?これ。 俺イヤリング返してもらうためにキスされたんだよね? それがどうしてこうなってんだ? 如月がなにを目的としてこの行動をしてるのかはわからなかったけど、俺が口を開ける状況では無かった。

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