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第12話

コウに渡された鍵を見つめる。 なんで会ったばかりなのに部屋の鍵とか渡せるんだろ…。 単純に疑問で仕方なかったが、ずっとコウの部屋にいるわけにもいかないから立ち上がる。 「あ…やべっ。」 ずっと座ってたのに急に立ち上がったせいで立ちくらみがして、バランスが取れずそのまま床に崩れ落ちる。 床に左足首が触れ、慌てて体勢を変える。 「痛い……。」 コウのベッドに手を乗せ、ゆっくりと立ち上がる。 そのまま壁に手を添えてドアを開け、コウの部屋を出る。 コウに手渡された鍵をしっかりと持ち、鍵を閉める。 閉め終わった直後、聞きなれた声が聞こえた。 「雪希!どこ行ってたんだよ。」 その声に慌てて振り向く。 腰に手を当てて立っている塁を見て焦る。 「思ったより早く起きたから…寮の中散策してただけだ。結斗は気持ちよさそうに寝てたからさ。」 「ふーん、ならいいけど。拉致られたのかと思って焦ったよ。」 起きて俺が見当たらなかったから梳羅に結人が電話を掛けたらしい。 あ、俺が戻んなきゃ結斗部屋でれねぇじゃん。 というか。 「拉致られるって誰にだよ。」 「え、そこら辺の悪い大人。雪希はさ、喧嘩してるときは負け知らずの超カッコイイ人だけど、普段はかわいいから。」 茶化すんじゃねぇ、そう言おうと思って塁を見上げるとあまりにも真剣な表情で何も言えなくなる。 あの日、俺に何があったかを伝えた時と同じくらい真剣で―― 「…ホクとの出来事のようなことが繰り返されかねないって解釈でいいか。しかもいつ発情期が来るかわからないし、ってこと?」 「雪希…気を悪くしたならごめん。でも――」 本当はわかってる。 俺が記憶をなくしたあの期間、一番辛かったのは塁だ。 俺だけ逃げて、塁だけは向き合ってる。 「いや、わかってるよ。でも、もうホクの話はしないでくれ。…アイツはもう俺の友人でも何でもないんだ。」 「俺のじゃない。俺等のだ。」 俺は思わぬ塁の言葉に目を見開く。 そんな俺の反応を見て、塁は軽く微笑んで俺の手を取った。 「そろそろ部屋戻ろ。結斗が出れなくて困ってる。」

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