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第27話
同棲という名の監禁生活が始まって何日が経ったのか。
全てを狂わされた俺にはもう何もわからなかった。
「ユキ、俺坂妓に呼ばれたからちょっと出掛けてくるね。」
「いって…らっしゃい」
ホクが家を空けたところで俺は逃げることなんてできない。
鎖で繋がれてるから。
ホクが出掛けることは何度かあって逃げようとしたけど無駄だった。
「コウ…助けて……」
俺ってこんなに弱かったんだとホクに会って実感する。
過去は過去だと割り切ってるつもりだった。
「コウ……」
よろよろと起き上がり、カバンに手を伸ばす。
スマホは取り上げられたけど、他のものはちゃんと手元にある。
財布の中から鍵を、一つ取り出す。
「コウ…この鍵持ってても本当に意味なくなったよ……」
コウに、会いたい。
ただそう思った。
知り合ったばっかだし、いけ好かない奴だけど。
俺が聞かれたくないと思ってることを察して、それでいて相談には乗ってくれるし。
たまにわけわかんないことしてくるけど。
変態だけど。
それでも、もっとコウと話してみたい。
「……ぎ‼ふ…ざ…な…‼」
突如、静かだった空間に怒鳴り声が響き渡り俺は顔を上げる。
今のって、ホクの声…?
ホクは波飛さんに呼ばれたんじゃ…?
ホクにここに連れられてからの恐怖で、働かなくなった頭で考えているとバンッ‼と大きな音とともに部屋の扉が開いた。
「……波…飛……さん」
「雪希、気づいてやれなくてすまねぇ。」
パッと頭を下げた波飛さんによろよろと首を横に振る。
波飛さんは何も悪くない。
そんなことより――
「助けて……」
「あぁ、とりあえずこれ羽織って。」
波飛さんが来ていた上着を一枚脱ぎ、俺に渡す。
俺は裸にされてることを思い出して、恥ずかしくなって急いで上着を羽織る。
波飛さんは俺よりも背が高いから、上着でも長さが結構ある。
寒いけど、ないより全然まし。
「あり…がとう…ございます……ホク、は?もう俺、平気、、なの?」
言葉が情けないくらいに絶え絶えになる。
そんな俺を見た波飛さんは右手を強く握りしめ、左腕で俺を抱きしめた。
「輝…であってる?雪希の学校の寮の先生。その先生が今、対応してくれてるけど多分どうしようもないから……北斗は俺が対応するでもいいか。」
コクン、と頭を縦に振る。
波飛さんに助けられて安心できた。
なんで、北斗とあったことを波飛さんが理解してるのか、とか。
波飛さんはコウと会ったのか、とか。
色んな疑問はあるけど。
「コウ……に会いたい。」
口をついて出た言葉だった。
何も意識してなくて、何も考えずに出た言葉。
「コウ?誰の事?」
波飛さんは俺を抱きしめたまま、優しく尋ねる。
あぁ、そっか。
俺だけだよな、コウって呼んでるのは。
――ずっとそうだったらいいのに。
「輝せんせ…」
「わかった、俺代わってくるな。…そのまま先生と一緒に帰って。いいな?」
波飛さんが俺と目を合わせて優しく笑う。
俺はただ頷き、波飛さんが走り去っていくのを見る。
塁が…話したのかな。
何があって、ホクとのことが波飛さんに知られたのかとかを考え出したら本当にキリがないけどどうしても考えてしまう。
また、迷惑かけちゃった。
そう思ったら、もう立っていられなくて床に座り込む。
へたり込んだ俺は、ぎゅっと抱きしめられてることに気が付いた。
「雪希、遅れてすまない。」
「…コウっ」
コウの声に顔を上げ、コウの首に腕を回す。
ぎゅっと、コウにしがみつくとコウは少し驚いた様子だったがすぐに頭を撫でてくれた。
「帰り……たい…」
「あぁ、帰ろうな。大丈夫だよ、帰ろう。」
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