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第33話
「俺、色々やばい…」
コウのベッドの上で目を覚ました俺は、発情期中ということもありあまり働かない頭で昨日のことを思い出す。
初・発情期か……
正直、あんなになるとは思わなかった。
でも…
「コウのキス…好きだなぁ……」
コウとのキスを思い出してゆっくりと唇をなぞる。
コウにキスされてるときは嫌なことも全部忘れられたし、なにより――
「誰かに愛されてるって感じがしたよな……」
感じたことのない、他人からの【愛】をちゃんと受け取って、身をもって感じられた。
コウに与えられた感情は温かくて、俺を包んでくれて。
同時に、失ってしまう恐怖があった。
「起きた?」
頭上からかけられた声に顔を上げる。
起き上がってるから起きてはいるのわかってんじゃないのかとか思いつつ、コウが近づいてきてたことに気づけなかった自分自身に驚く。
コウのそばだと変に気を張ってないでいられるんだ――
「うん」
「とりあえず、水。……昨日は悪かった、俺もあんなに歯止めが利かないとは思ってなかった。いや、そういうもんだと知ってるんだけど。…止まれなかった、怖い思いさせてすまん。」
本当に申し訳なさそうに頭を下げるコウ。
口が悪い癖に、本当にしてほしいことを察してくれて。
悪いと思ったことはすぐに謝るって当たり前だけど蔑ろにされがちなことをしてくれる。
「すき…」
「え…?」
思わずこぼれた言葉と、コウの声でハッとする。
”俺は、コウのことが好き…なのか?”
安心して、ずっと一緒にいたいと思って――
でも、本当に?
愛なんてまともに知らないくせに本当に俺はコウのことが好きなのか?
そんなに会ってから日が経ってすらいないのに。
発情期は思ったより頭が働かないらしい。
考えてもちゃんとした答えを出すことができない。
「コウ、【好き】ってどんなの?」
「んー、俺は支えあいながら生きてきたい、最期の瞬間まで色んなことして一緒にいたい。って思うことだと思うよ。…そんなことより、今は落ち着いてる?」
初めての発情期について話を切り替えたコウにうなずく。
コウが話を切り替えたのは少し気になったけど、今落ち着いてるのは本当のこと。
発情期とかは人によって辛さが違かったりするらしいけど、俺は結構軽めなのかもしれない。
「ならよかった。それで、なんだけど。……ごめん、これ飲んで。」
申し訳なさそうにコウに差し出されたのは一錠の薬。
見たことないのだから抑制剤ではないと思うんだけど、これ何の薬?
思っていることが顔に出ていたのか、コウが気まずそうに口を開いた。
「ピル。…中に出したから。腹は壊さないように後処理はしたから…発情期中は妊娠の確率がすごく高くなるのわかってたのに、すまん。急いで飲んでもらえるか?」
本当に申し訳なさそうに薬を差し出すコウに頷いて薬を受け取る。
これからのこと考えたりしたときに今妊娠したら困るのはわかってる。
だけど、それでも。
お腹にコウとの子供ができるのかもしれないと思ったら不思議な気持ちだった。
これを飲まなければ――
「雪希…?」
「あっ…ごめん、飲むから怒らないで、見捨てないでっ!」
俺の野暮な考えが見抜かれた気がして。
そのままコウに呆れられるんじゃないかって思って苦しくなる。
震える手で薬を口に運ぶ。
きっと俺は、コウが好きで間違ってない。
コウが好きだから、コウとの子供の可能性がある今が嬉しくてその可能性を下げる薬を飲むのが嫌なわけで。
でも、コウはそうじゃないから。
コウが俺と寝たのはフェロモンに誘われたから。
ただそれだけだから。
「怒ってないよ、ただ…ぼーっとしてたからどうしたのかって思ってさ。」
大丈夫ならいいけど、と頭を撫でようとしたコウから咄嗟に身を引く。
”どうせそばに居れなくなるんだから、辛い思いするならコウのそばに居たくない”
コウに触れられると嬉しくて、でも同時に苦しくなるから。
ちょっとだけ、いい思い出ができたと思おう。
「雪希?」
「ごめん、携帯取ってもらっていい?波飛さんのとこ行く。」
発情期に入ったばかりの体は怠い。
思うように動けないし、思考回路もまともじゃなくなりやすい。
だから少しでも早く、信頼してる人のとこに行きたかった。
「雪希は……いやなんでもない。わかったよ、荷物取ってくるから待ってて。服はそこにある。洗濯してあるから。」
コウは俺が薬をちゃんと飲んだのを確認して身をひるがえした。
置かれてた服を着ながらこれからのことを考える。
気を付けないと、もしホクに会ったとき番にされてもおかしくない。
波飛さんといればきっとホクに会う確率は上がるかもしれないけど、波飛さんは責任感があるっていうか面倒見がいいとこがあるからきっと助けてくれる。
噛跡も何もない項を触る。
コウがもし、もしも俺の項を噛んでたらコウはどうしてたのか。
とか、バカみたいなことを考えてしまう頭を振る。
ため息をついて服を着て立ち上がる。
ちょうど、コウが荷物をもって入ってきたところでコウと目が合う。
コウはためらいがちに口を開いたけど、何も言わずに荷物を渡してきた。
互いに言葉を発さずに、静かな空間のまま俺は携帯を取り出す。
”坂妓波飛”
波飛さんの電話番号を見つけてすぐに電話をかければ、3コールもせずに波飛さんは電話に出た。
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