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第36話
「ママぁ、見てー!」
「何?雪希。」
「これ、ママかいたの!!」
「あら、ありがとう!」
ぎゅっと、抱きしめられる。
大切なものを扱うように。
…………
「雪希、今日一位だったね!」
「え、お母さん…今日、お仕事だったんじゃないの?」
「そうなんだけど…雪希の応援したくてちょっと抜けてきちゃった」
「いいの?…ありがとう。」
「少ししか入れなくてごめんね、今日の夕飯はごちそうだからね!」
…………
これは、俺の記憶...?
なら、俺といるのは…母さん?
そんなわけ...だって母さんはいつも怒鳴ってた。
高学年になればなるほど――
あ....もし..かし...て......
「雪希を苦しめるなって言ったはずだろ⁉」
「あのな。俺だって苦しめたくなんかない。でも、俺に何ができるっていうんだ。」
少しだけ思い出した記憶。
母さんの行動。
絡みまくっていた糸が解けるように、すっと一つの考えが浮かぶ。
その考えを口にする間もなく、誰かの怒鳴り声とそれに応する声が聞こえる。
ゆっくりと、目を開ける。
声のした方を見れば、部屋の入口で波飛さんと誰かの姿が見えた。
そのままゆっくりと体を起こすと、波飛さんとその話し相手が気づいて波飛さんだけが駆け寄ってきた。
「雪希‼大丈夫?でっかい音がしたから不安になって行ったら倒れてて......」
「ごめんなさい、心配かけて。そんなことより、誰かいるんです..か.....」
波飛さんの後ろを覗き込むようにして見れば、目が合ったのは――
「こ....う....なんで、ここに、いんの」
「雪希に会いに来た。....雪希を取り返しに来た。」
俺は、コウに会いたくなんかなかった。
離れたくないと思ってしまうから。
「いや...だ。」
「......なんで、急に嫌なんだよ。俺にヒートの相手されるの嫌だったの?」
そんなに嫌われるようなことしたっけ、と問いかけてくるコウ。
波飛さんはコウのことを睨み続けている。
「違う...嫌だったわけじゃない...けど..俺は.......」
どうすればいいか、もうわからない。
もしも、推測が正しくて俺は母さんに愛されてて、途中で急に愛されなくなったから愛が怖くて愛されてたのを忘れてたなら、もう同じ思いをしないのが懸命。
それになにより、俺は二回もコウ以外のαに抱かれてる。
いつかそれに触れられたっておかしくない。
「ねぇ、帰ってきてよ。他のαのとこ、行かないで。」
悲痛なコウの声に戸惑う。
俺は、どうすればいい?
「輝、雪希を苦しめるなって俺言っただろ。苦しめるような奴が雪希の傍にいるな。」
波飛さんはコウに対して怒りを露わにする。
自然にαのフェロモンが出て、それに当てられる。
怒りを含んだフェロモンは俺に強い圧をかける。
「波飛っ.....さ、くるし.....」
「っ、すまねぇ。雪希、一回下で休んでてくれ。.......ちょっと輝と話をさせてくれ」
波飛さんは慌てて怒りを鎮め俺に向き合う。
俺はもう少し一人になりたかったこともあり頷いて、コウと波飛さんの間を通って下へ降りて行った。
ちらっと見たコウの表情が悲しげだったのは、多分。
気のせいのはず――
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