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第37話

「なんで、コウが来た...?俺を取り返しに来たってどういうこと....」 波飛さんの家のリビングでソファーに丸くなる。 会いたいけど一番合いたくなかった相手。 「俺に会いに来たってこと...?そんなの、期待するじゃんか.....」 傷つきたくないからコウから離れたのに。 俺は、コウが冷たくなるのが怖いから―― 「あっ、やばい..」 安定してない初めての発情期。 コウが隣にいたときはあんなに軽かったのに、コウがいなくなっただけで苦しくて。 「やっだっ....苦しっ..むり.....」 二階に行けばコウがいるんだから、コウを呼べば楽になると思うけど。 もう一度コウに頼ってしまったらもう一人になれない。 でも―― 波飛さんは巻き込みたくない。 俺を捨てないでくれて俺のそばにいてくれる人..... 「雪希!?すごい匂いだけど...」 ドタバタと階段を駆け下りる音が響いたかと思えば、リビングの入口に腕で鼻を押さえたコウと波飛さんがいた。 「波飛...さん..ごめ、なさ」 「謝んなくていい。そんなことよりこのままだとやばい....」 波飛さんは焦ったように身を翻してどこかへ駆けていく。 コウと、二人きりにしないで―― 「波飛さんっ!!待って――」 「雪希、俺がいるんだ。俺を見て。」 一歩も動かず、入口に立ったままコウが呼びかけてくる。 痺れるような感覚に襲われて頭がぼーっとする。 コウの声を聴くと、おかしくなりそう。 「やっ...」 「せめて...何が嫌なのか教えてよ。俺の何がダメだったのか...」 「ちが...何もダメじゃない...」 ポロポロと涙が零れる。 発情期って精神的に不安定になりやすいんだっけ。 そんなことは考えられるのに、コウに伝えたいことは何も伝えられない。 「雪希!!一回ここから出てくれ!お前が危ない...北斗が、北斗が来る...!」 大声で波飛さんが叫んで戻ってくる。 北斗...か。 ”俺を捨てないでくれて俺のそばにいてくれる人” 俺のことを初めて好きって言ってくれた人。 形は曲がってるけど、それに俺が答えればいいだけで。 もう苦しい思いをしなくて済むなら―― 「会い..たい...」 「「は...?」」 コウと波飛さんの声が被る。 二人とも驚いたようにしながら俺を見てる。 「ホク呼んでっ!!ホクに会いたい...苦しいから、早くっ....!!」 今、ホクに会ったら間違いなく番にされるだろう。 でも、もういい。 ヒートが起こった状態で二人のαの前でしゃべり続けるのはこれ以上ないくらい辛いし。 ホクならずっと俺を愛してくれる。 「あんな奴なら、俺にしろっ!!」 コウが勢いよく俺に近づいてくる。 αのフェロモンはヒート状態の俺にはきつくて。 地面を這いつくばるようにしてコウから距離を取る。 「いや、苦しい...ホクっ.....もう、誰でもいい..俺のこと、愛してよっ....!!!!」 「ユキ、呼んだ?」 コウと波飛さんの後ろからした声。 顔が見れなくたって誰かわかる。 だって俺を”ユキ”と呼ぶのは一人だけ―― 「ホク...」 「北斗、お前はもう雪希に会わないって約束しただろ。近づくな。」 波飛さんはホクを俺に近づけまいとホクを牽制する。 でも、ホクはなんも気にせずにケロッと口を開く。 「ユキがこんな状態で俺の名前呼んでくれたんだよ?....わからないわけないよね、ヒート状態にもかかわらず自分の好きなΩに名前を呼ばれることがαにとってどんなに嬉しいか。」 ニコっと波飛さんに笑いかけてホクは歩き出す。 ホクのことが怖くないなんて言ったら嘘で、コウと離れなきゃいけなくなるの嫌。 だけど、もう苦しすぎる。 「......雪希、悪いな。」 ずっと黙っていたコウが口を開いたかと思えば、近づいてくるホクを睨みつけながら一発俺の急所を的確に殴ってきた。 ヒート状態で弱ってる俺は、そのまま意識を失った。

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