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第38話

――ずっと、誰かに愛されたかった 誰かの特別でいたいと思ってた。 でも、そんなことをいうと負けたような気がして嫌だったから。 その気持ちを隠すように、絡まれやすいのをいいことに喧嘩してた。 波飛さんはそんな俺になんとなく気づいてて、だからこそ関わってくれた。 俺がいつか壊れたりしないように、って。 そんな波飛さんと関わってるうちに気持ちも落ち着いてきたし、喧嘩から足を洗おうって決めれた。 喧嘩なんかしなくても、そんな気持ちは忘れられるくらい友情とか信頼関係ができてたから。 喧嘩をやめた後でも、波飛さんは関わりを持ってくれてたし塁も変わらずそばにいてくれた。 ――それはもちろん、ホクも。 もし、ホクの親が海外に転勤することにならなければ。 同じ高校に進学できていれば。 俺はホクに無理やり犯されることもなければ、自由に人を好きになれたのか... 考えてもどうしようもないことを何回も考えてきた。 あの日に戻れたらいいのにって。 あの日に戻って、ちゃんとホクをかわせてたなら、って。 ずっと、コウのそばにいたいのに、俺にはいる資格がない。 そのことが辛くてどうしようもない。 「コウが、好き。」 たった五文字を伝える資格が俺にはない。 いつかコウは他の誰かと笑ってて、俺のことなんてなんにも覚えてない日がくる。 それが、嫌だから―― 「.....きて、おきて、起きて、雪希。」 俺の名前を呼ばないで。 その声で、俺の名前を呼ばないで... 「ユキ、起きてよ。」 ユキ...か。 俺をそうやって呼ぶのは、ふざけてるときの塁かホク.....ホク!? 同じ場所にあるはずのない声が聞こえて思わず目を開ける。 目を開ければ、すぐそこにコウとホクがいた。 ゆっくりと、体を起こす。 二人が、少しずづフェロモンを強めていく。 俺を追い詰めるように。 「やめ、て...圧かけない、で..」 弱々しく声を絞り出す。 どんなに喧嘩をしてきてたって所詮俺はΩだ。 αにはどんな面においても敵わない。 「なぁ、雪希。俺はどうしても納得ができないから。こいつを選ぶって言ったさっきの発言、もう一回ここでしてよ。俺の目の前で、こいつを選ぶっていうなら俺ももうこれ以上しつこく言わないから。」 「俺は、ずっと言ってきたけどユキのこと大好きだし絶対幸せにできるよ。長い間一緒にいたんだ、俺を信じてよ。...選んでくれれば感情的になることもないからさ。」 じりじりと圧を強めながら二人に板挟みにされる。 選びたいのは一人。 だけど、選べない相手。 「俺...は......。」 好きな人の目の前で、好きな人以外を選ぶ。 そんなこと、俺にはできないししたくないけど。 しなきゃいけない.... 「俺は....」 ホクを選ぶ。 頑張って声を出そうにも、声が出ない。 急な体の怠さと、体の熱さ。 これは.... 「ユキ、ヒートじゃん。...いい匂い。」 スンスンと鼻を鳴らしながらどんどんとホクが距離を詰めてくる。 ”怖い” ただそう思った。 またこのまま犯されて、番にされるのではないか... 「っ、離れろ‼雪希がいるってのに抑制剤飲んでないのかよ⁉...いいか、雪希。波飛のとこに行け。俺はこいつをどうにかする。波飛も結構強めの抑制剤飲んでるし、下にいる。早くいけ‼どっちかに無理やり番にされたくないだろっ⁉」 コウがホクを後ろから羽交い絞めにして、自身の腕を噛んで怒鳴る。 コウの腕からは赤い血が滴り落ちている。 俺の同意がない無理矢理なんてもう許さない、というかのように。 声も出せずにただうなずく。 階段を必死になって降りて、扉をたたく。 俺の信頼できる人。 俺を何回も救ってくれる人。 その人から離れながら。 叩いた扉から出てきた波飛さんに体を預けて、熱い体を抱きかかえるようにして腕を回して呟いた。 「波飛、さん、俺...コウのそばにいたい」

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