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第40話 波飛side

「私の息子をよろしくお願いします。」 あの人の言葉を思い出す。 自分より年下の、しかも息子と歳が二つしか変わらないガキにどんな気持ちで託したのか―― 俺はガキだった。 初めてあの人に会ったとき、そう実感した。 親に捨てられて、捻くれて喧嘩三昧で。 強ければいいと、ただそう思っていた。 ―――――――――――――――――――――――――――― 「いってぇなぁ....骨折れたかもしんねぇなぁ、これ。」 「ふーん。」 そっちがぶつかってきたくせによく言うよ。 てか、そんなんで骨が折れるわけないだろ。 牛乳とか飲んで、骨丈夫にしたらどうですか? 声には出さないが、内心で悪態をつく。 ぶつかってきたやつらは飄々とした俺の態度が気に入らなかったらしく更にいちゃもんをつけてきた。 「おい、ガキ。謝れねぇのかよ、お前は。」 「ごめんなさーい。....これでいい?」 別にこいつらなんて怖くもなんともない。 俺の態度が気に入らなかったらしいこいつらは俺に向かて拳を振りかざしかけた。 「お巡りさん、こっちです‼男の子が絡まれてるんです‼」 突如響き渡った声に絡んできた集団は慌てて逃げ去って行った。 殴られずに済んだのは安心だけど...一体誰がどこから...? 「大丈夫?君も勇気あるね。」 ひょこっと建物の陰から出てきたのは割と若い女性。 小5の俺に母親がいたらこのくらいの年齢だったのかもしれない。 「ありがとう。でも、誰。」 「ストレートだねー。私はね、長橋(ながばし) 七海(ななみ)っていうの。君は?」 「俺?俺は―――――――――――――――――――――――――――――― 見ず知らずのガキを助けた上に丁寧に自己紹介までして変な人。 第一印象はただそれだけだった。 でも、七海さんは俺が絡まれてるのを見つける度に助けてくれたし、いつしか絡まれてなくても一緒にいるようになってた。 ―――――――――――――――――――――――――――― 「波飛くんはさ、今いくつだっけ?」 「来月で中1だね。なんで?」 「じゃあ、雪希とは2つ離れてるのかー」 今まで聞いたことのない名前。 呼び捨てで親しげ。 七海さんの子供かな、と思った。 「七海さんの子供?雪希、って。」 「そうだよ!やっぱり波飛くんは鋭いねぇ。これ、雪希の写真。雪希、写真撮られるの嫌いでさ全然撮らしてくれないんだよー。これが唯一撮らしてもらえた写真なんだよね。可愛くない⁉自慢の息子なんだよね!」 嬉しそうに語りだす七海さんを見て、実際にはあったことのない雪希が羨ましくなる。 俺も、こんな風に自分のことを嬉しそうに話してくれる人に会いたかった.... 「雪希はいいね。七海さんに愛されてて...」 ポロっと思わず口をついて出た言葉に七海さんが驚いた顔をする。 あぁ、そっか。七海さんに話したことはなかったっけ。 俺には親がいないことを... 「俺には、親がいないからさ。七海さんに愛されてる雪希が羨ましいよ...」 「......秘密にしてねって言われてたんだけど、ね。やっぱ伝えるよ。ごめんね、(ほし)。」 聞いたことのあるような、ないような名前。 一体誰のことなのかわからず、ただ七海さんの話を聞く。 「星はね、波飛くんのお母さんで...私の親友だった。」

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