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第43話 波飛side
空耳だと思った。
空耳であってほしかった。
「嘘...だよね、七海さんまでいなくなるなんて、言わないで....?」
「...ごめんね、私じゃどうしようもないの。私も信じられないし、死にたくないよ...」
また、俺は一人になる....?
いや、俺より大きな問題がある。
俺は一人だったからいいけど、アイツは、雪希は違う。
七海さんに愛されて育って、傷つかないわけがない。
「雪希、雪希は...?今、小6だよね...どうなるの?」
「雪希は..私が死ぬのを知らないし最近話してないんだ。最近っていうより...病気が分かってから。」
七海さんが雪希と話してない...?
あんなに、目に入れても痛くないんじゃないかってくらい大切にしてて、大切にされてて。
自然に話さなくなるわけない。
病気が分かってからってことは――
「病気が分かった時から死ぬって言われてた?だから、急にいなくなって雪希を悲しめないように雪希と話をするのをやめて、関わりを減らした?」
「波飛くんは、本当に鋭いね。....勝手な、自分勝手なエゴだと思う。でも、私が死んだことで独りになって苦しんでほしくないんだ。だから、私をとことん嫌ってほしい。嫌って関わりをなくして、私が死んだところで軽く流せるような、そうなってほしい。」
七海さんは苦しそうだった。
あんなに大好きでしかたない雪希のことを突き放すような行動をしなきゃいけなくて。
雪希は、あんなに七海さんに愛されてたことを分かってないはずがない。
「雪希は、悲しんでないの?」
「....忘れちゃったんだ、私が雪希を愛してること。――病気が分かった日、初めて雪希を突き放したの。次の日も....って繰り返してたらある日言われたんだよね。『あんたはいつも俺を突き放す‼そんなに俺がいらないなら産まなきゃよかっただろ⁉一度も....一度も俺のことを愛さないくせにっ‼』って。」
七海さんは悲しそうに笑った。
病気がなければ、今も七海さんは雪希と楽しく話をして、幸せに暮らしてるはずなのに。
どうして....
「.........」
七海さんに声をかけたい。
でも、俺なんかが何かを言えるわけではないし。
俺ができることなんてない。
「波飛くんにね、頼みたいことがあるんだ。雪希...絡まれやすいみたいんだけどそれに応じて喧嘩を始めたみたいなの。だから――」
七海さんはそこで言葉を切って頭を下げた。
「私の息子をよろしくお願いします。」
その言葉はきっと、俺がここら辺で一番喧嘩が強いと知ってるから。
それでも息子と、雪希と二つしか歳が変わらない俺に頼むなんてそんな馬鹿みたいなこと...
やめてくれ、そう言いたかった。
でも、七海さんの真剣な顔を見たらそんなこと言えなくて。
「わかり...ました。」
と、それだけしか言えなかった。
それから数日後、七海さんが亡くなったと七海さんのお兄さんから連絡があった。
きっと、わざわざ俺にまで連絡を回してくれたのは七海さんが頼んでいたからだろう。
そして七海さんが亡くなってから約1ヶ月後、俺はやっと雪希を見つけた。
雪希は荒れていて、七海さんと出会う前の俺みたいだった。
それでも、話をしたりするうちに少しずつ安定していって――
喧嘩もやめて、安心してたのに。
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