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第52話 波飛side

「んっと、はい!先生、波飛さん入って!」 寮のドアを開けて部屋に入って行った塁に続いて塁の部屋に入る。 塁は話を聞きたいといったが多分まだ寝てないだろうし、眠そうだったらすぐ眠らせてやろう。 そう思って先に風呂に入るように促した。 「俺も風呂借りていい?塁が出たらさ。」 「それはかまわないけど...すぐ出るから待っててよ?」 分かってるよ、と頷けば塁はしぶしぶ部屋の奥に消えていった。 塁が風呂の方へ向かったのを確認して塁の部屋を見渡す。 塁は見た目の割に綺麗好きだから部屋が綺麗。 なのに今は教科書が散らかってたりする。 「波飛くん...って呼んでもいいのかな。」 「あ、全然かまいませんよ。えっと...風希先生でしたっけ?」 「はい。呼び方は適当でかまいませんよ。...塁くんが来る前に聞いておきたいことがあるんですが聞いてもいいですか?」 風希さんの言葉に頷く。 さっき彼は『もう一つ聞きたいことがある』と言っていた。 そのもう一つの話だろう。 「輝の話なんですけど...あ、輝っていうのは雪希くんたちの担任です。」 「彼のことならよく知ってますよ。会ったこともあるので。」 細かく話して遮るのを避けるために、軽くそう伝える。 そういえば輝は同期で幼馴染の先生がいると言っていたがそれが風希さんなんだろう。 「そうなんですね。じゃあ、話が早い。輝が雪希くんを”運命”だって言ってたんです。」 「...知ってます、間違いじゃないと思います。詳しくは言えないんですけど、それに関しては嘘じゃないです。」 「やっぱり...そうすると輝にも危険が及んでるかもしれないんです。」 輝に? 今回の雪希の怪我は誰かによるものってことなのか? 「雪希が輝のところに昨日までいたんですけど、雪希が『輝のそばにいたいけどいれない』っていうから発情期だったし寮に連れて来たんです。俺もαだからあんまりそばにいない方がいいと思ってとりあえず帰ったんですけど、雪希の母親が死んでから代わりに育ててくれてた人に、雪希の母親について伝えてほしいって言って。その理由は省くんですけど、そのあとすぐに輝に連絡したのに未だ返信もなんもないんです。だから、あいつは雪希の怪我も知らないし、あいつに影響はないですよ。」 少し笑うようにして言えば風希さんは焦ったように口を開いた。 「αでも、知ってる人は少ないんですけど、運命同士だとどっちかが命の危機にさらされたとき、特にΩが命の危機になるとαには大きな影響があるんです。連絡が取れないのは多分...」 そこまで言って口を閉じた風希さんの真剣さになんとなく嘘ではないんだろうと感じ取る。 輝が寮に戻っていないなら多分家にいるんだろう。 すぐに行けるし、後で向かうか。 「波飛さん、先生、お待たせしました。波飛さん、今入ります?」 「いや、後ででいいかな。ありがとう。」 「じゃあ、話しますね。」 風希さんの言葉に、俺と塁が同時に頷く。 風希さんは鞄から少しだけ書類を取り出して並べながら話し始めた。 「俺も医者じゃないのでうまく話せないですし、どういう状況だって言われたのかだけ伝えますね。...雪希くんの頭は正面、つまりおでこのところが大きく切れてました。だから、塁くんが言ったとおりに受け身がとられてなかったです。それで、さらに打ちどころが悪くて...目が覚めても記憶が飛んでる可能性や、何かしらの障害が残る可能性がある、ということです。」 受け身を取ってなかったのは本当のことだったんだ。 しかも、障害や記憶喪失? どのくらいの確率でそうなって... 「記憶が飛ぶ...?雪希、俺らのこと忘れるかも、しれない、ってこ...と...?」 信じられないほど、細く弱弱しい塁の声にハッとする。 そうだよ、俺がしっかりしないと。 「塁、大丈夫だよ。」 「俺の、せいだ。俺がもっと早く雪希のこと、見つけてあげられれば、雪希のこと、守って、あげれれば、もう、傷つけない、って、決めて、た、のに、波飛、さん、俺...」 ぎゅっと、体を小さく丸めながら俺に必死になってしがみついてくる塁の頭を優しくなでる。 塁が悪いわけじゃないんだ。 誰が悪いとか、そういうことじゃないんだ。 だから、自分を責めるな。 その気持ちが伝わるように。 塁の目から涙が零れているのか、少しだけ服が濡れてきた。 塁が泣くなんてほとんどなくて、どうすればいいかわからなくて。 ただひたすらに、抱きしめていた。 「お前のせいじゃないから。塁...」 何分、そんな風にしていたのかはわからない。 風希さんは何も言わずに待っていてくれた。 しばらくして、塁が静かになったかと思えば寝ていた。 泣きつかれたのか、心配していて疲れがたまっていたのか。 両方だろう。 とりあえず、塁のことを寝かせてやろう。 「風希さん、ちょっと待っててください。塁のこと布団に連れてきます。」 「僕も手伝いますよ。塁くんを運んだら、輝のところに行ってもいいですか?移動しながら質問に答えたりするので。」 風希さんの言葉に頷く。 ちょうど輝のところに行こうと思ってたから助かる。 「そうしましょう。」

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