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第56話 輝side
「...る..おい、輝....!!」
ゆさゆさと体を揺らされる。
うるさい...うるさい........
誰も俺を起こさないでくれ。
誰も俺を必要としないんだったらもういいじゃないか。
運命にすら、見放されたんだから。
「...いい加減にしろっ!!!!!!」
怒鳴り声と共に頬に痛みが走り目を開く。
「...光舞..か。」
「輝、お前が体調悪いのは分かってる。だけど、このままだと二人とも危険だから起きてくれ。」
目に入ったのは幼馴染の風希光舞。
同じ格好の教職員で寮でもよくしてくれてる。
んで、俺を叩いたのは...
「輝...」
「あぁ...波飛........」
雪希の信頼している相手。
絶対に俺が勝ることのできない相手。
「雪希が...瀕死だ....あと――」
”記憶喪失になるかもしれない”
キオク....ソウシツ......?
「嘘..だよな?なんで?雪希はどこにいんの?雪希は...幸せじゃないのか?」
「輝、お前は雪希と運命だろ?その運命が命の危機だからお前は体調不良になってる。そんなか申し訳ないけど、雪希を救うためにも俺たちについてきてくれ。頼む。」
痛む頭を押さえつつ起き上がる。
雪希、俺の運命。
俺の大事な....
そこまで思って虚しくなる。
「雪希が俺を選ばなかったんだ。俺じゃない...トラウマを選んだ。だから俺が行っても意味なんてないさ。」
そう、分かってる。
俺だけが醜く雪希にしがみついてる。
だから、俺は雪希が運命だってすぐ気づいたのに雪希は気づかない。
「輝......」
「ぐちぐちぐちぐちうるせぇんだよ、お前。」
黙り込む光舞とは反対に俺の胸ぐらを掴んできた波飛。
あぁ、こいつはきっと雪希が大事なんだろう。
「いいな、雪希は。」
「あ?」
雪希が羨ましくてそっと漏らせば、波飛は苛立ちを隠さず俺にぶつけてくる。
αは独占欲を見せたりしたがらない。
なのに、波飛はいつも雪希に対する独占欲を露わにしてて。
そのくらい、大事なんだろう。
「雪希には、俺がいなくても波飛。お前がいる。αで、番にもなれるお前が。俺がいても雪希は北斗を選んだ。俺は...俺は雪希しかいないのにね。北斗が言ってたこと、覚えてるか?『ヒート状態にもかかわらず自分の好きなΩに名前を呼ばれることがαにとってどんなに嬉しいか。』...って。あの時の俺の気持ちがわかるか?唯一の、唯一の存在のはずの運命が目の前で別のやつを選んだんだ。.....俺よりもあいつを苦しめてる...トラウマを作ったやつを選んだんだ。」
光舞が言ってた言葉を信じてた。
『お前にもいつか絶対、運命が現れるから。だから、生きろ。』
でもさ、こうなるなら運命になんか出会いたくなかったよ、光舞。
「だからなんだよ。お前に何が分かるんだよ!!雪希に、あいつに何があったか!!あいつがどんな思いしてここまで生きてると思ってんだよ、あいつは...」
「波飛くん!!もう...やめてくれ。輝は...運命が最後の頼みだってずっと言ってたんだ。だから、だから...」
「光舞。それ以上口を開くな。...申し訳ないが、俺はもう雪希と関係ない。ただの担任だ。分かったら出て行ってくれ。」
もう、俺は無理。
運命になんて出会わなければよかった。
「...輝は......お前は雪希が死んでもいいって思ってんのかよ!」
「死んでいい人なんていないんだよ。...誰かに必要とされてる人に。」
「輝!俺はお前を必要としてるから!!」
必死になって俺に声をかける光舞が微笑ましい。
いつだっけ、俺が最初にこの話をしたのは。
この話をしてから、ことある度に光舞は俺を必要だって言ってくれる。
「出てってくれ。寝たいんだ。波飛、お前が雪希を守ってやれよ。あいつが北斗を選んだから俺は引く。だけど、お前は引かなくてもいいんだよ。俺は...運命に捨てられた奴だから。」
そう。
俺は運命に捨てられた。
なかなか出て行こうとしない二人を横目に痛む頭を押さえ寝室へ向かう。
苦しい..何が運命だ。
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