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第58話 雪希side

しばらくして帰ってきた波飛さんに一通りの説明を受けた。 俺は1年間の記憶を失っていること。 記憶をなくした1年の間に、北斗に犯されていたこと。 高校に入る前に喧嘩から足を洗っていたこと。 入学した高校で運命の番に会ったこと。 誰が運命の番なのかは波飛さんも、波飛さんと一緒に来た風希先生(俺が入学した高校の先生らしい)も教えてくれなかった。 それもそのはず、俺が記憶を失ったのはその「運命の番」が関わっているらしい。 「雪希は.....運命の番が誰か気になる?」 「そりゃぁ、まぁ。だって、世界で一人だろ?それに...必ず出会えるわけじゃないんだし」 別に俺はロマンチストなわけではない。 バース検査をしてΩだと分かって耳に胼胝ができるほど聞かされた話の中に運命の番の話が合っただけだ。 でも、運命の番で互いに唯一の存在であるなら俺のことを愛してくれるのかもしれないと思ってはいる。 「...記憶を失うきっかけになったのに?雪希が倒れてたのは、あいつが...運命の番が関係してるんだよ。下手したら命を落としてた。それでも、雪希は誰か知りたいの?..........俺は、忘れたままでいて欲しい。このまま忘れてしまって、今後出会わなければ...出会う前に誰かと番えばもう雪希は苦しまないんだよ。俺は...一回約束を守れなかったけど、今度こそ守ってみせるから。だから....だから.....」 そう、思ってたのに。 苦しそうに話す波飛さんを見ていると何が正しいのかなんてわからなくなって。 俺のことを助けてくれた波飛さんが苦しい思いをしているなら知らない方がいいんじゃないかって思って。 「その、俺の運命の番は...俺が運命だって知ってるんだよね?」 「え...あぁ、うん。」 「....じゃあ、俺からは知ろうとしなくていいかな。運命の番で俺が唯一の存在であったらきっと会いに来てくれるでしょ?そしたらでいい。.......来なかったら、まぁそういうこと。」 それでいい。 俺から求めて苦しくなるのは嫌だ。 俺のことを必要としてくれている相手がいい。 俺ばっかりは苦しい。 「そ..っか。分かった。」 「...雪希くん、疲れてる中ごめん。学校のことなんだけど事情はちゃんと説明してあるし、僕も時間があるときに来て教えるから心配しないで。留年になったりはしないようにしておくから。退院の目安は、1,2ヵ月らしいから。」 「あ、ありがとうございます。」 高校の授業も心配ない。 忘れてしまった記憶と、俺の運命の番が気になるところではあるけど。 とりあえずしばらく考えるのはやめよう。

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