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『だめんず・うぉーくを止めるとき』番外:『手作りバレンタイン』~その2~

「へー。それで彰先生は、毎週将棋の研究会に行ってんのか。相変わらずバイタリティあるよなあ」  俺の作ったビーフシチューを爆食しながら、馨が言う。彰は、『星彩』が定休日の日曜を利用して出かけているのだ。手持ちぶさただった俺は、馨を家に招いたのである。 「羨ましいなあ。将棋って、結構美人の女流がいるもんなあ」  のんびりとそう言ってから、馨はあっという顔をした。 「わ、悪い! 別にそういう意味じゃねえから」 「いや、別に今さら気にしねえよ」  馨にはそう言ってみせたが、俺は内心ぎくっとした。このところ、彰は将棋研究会からの帰りが遅くなりつつある。議論が長引いた、とか、葵さんと話し込んでいた、とかいろいろ言い訳はしているが、並べ立てられるとかえって不安になるものだ。研究会のメンバーをこっそりチェックしたら、確かに女流は多かった。中にはかなりの美人もいる。  ――いや、彰は女には興味ねえんだから、何も心配することはないんだけど……。 「あー、めっちゃ美味かったわ。ところで何で、こんな豪華なもんを昼からご馳走してくれんの?」  シチューを食べ終えた馨が尋ねる。俺はちょっと赤くなった。 「いや、それな。バレンタインのメニューにどうかって思ってて。ほら、一年前は俺たちバレンタインどころじゃなかったから。今年はちゃんと祝いてえなあ、って」  ああ、と馨は神妙な顔をした。あの悲惨な事件が起きたのは、一年と少し前のことだ。彰と二人、事実上初めて迎えるバレンタインを、俺は内心かなり楽しみにしているのである。 「いんじゃね? お前の手作り、彰先生も喜ぶぜ。味見役ならいつでもやってやるからさ!」  俺を励まそうとしてだろう、馨は明るい声を上げた。 「頼むわ。お前も、たまには彼女に作ってやれよ。料理男子はもてるぞ?」  馨をからかいながら、俺は心の片隅にある微かな不安を、必死に追い払おうとしたのだった。

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