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『だめんず・うぉーくを止めるとき』番外:『手作りバレンタイン』~その3~
だがその不安は、増す一方だった。彰は、将棋研究会にかなりのめりこんでいる様子なのである。帰りは、遅くなる一方だ。気が付けば、二月に入っていた。
――無駄に料理ばっか上達したじゃねえか……。
この一月、彰が不在の間、俺はバレンタインメニューの練習ばかりしていた。味見役となった馨は、三キロ太った、などとぼやいていたくらいだ。
――今夜こそは、しっかり確認しよっと。
研究会にはいつまで参加するつもりなのか、そう聞こうと俺は心に決めた。だがその夜、研究会から帰宅した彰を出迎えた俺は、ドキリとした。彰から、女物の香水の強い香りがしたのだ。
「ただいま……。昴太、どうかした?」
彰が怪訝そうな顔をする。
「あ……、ううん、お帰り」
狭い部屋で一緒に勉強していたら、香りが移ることもあるかもしれない。俺は、一瞬浮かんだ疑惑を振り払った。
「今日も熱心に勉強してたんだな……。ところでお前、いつまで参加するわけ? ほら、店が休みの日にまで頑張ってたら、くたびれねえ?」
そう、俺は彰の体を気遣っているのだ、そう言い聞かせながら俺は尋ねてみた。来週の日曜は、二月十四日当日だ。ちゃんと、覚えていてくれるだろうか……。だが彰は、けろりと言い放った。
「来週までだけど」
――そっか……。
俺は、思わずうなだれた。バレンタインを一緒に過ごそう、なんて考えていたのは、俺だけだったのだろうか。そもそも、男同士でバレンタインという発想自体、馬鹿げていたかもしれない。
「――わかった」
しゅんと下を向く俺を見て、彰は心配そうな顔をした。
「昴太、大丈夫? 何だか元気ないけど」
「――別に」
「そう?」
俺を元気づけようとしたのか、彰は軽く抱きしめてきた。だが、唇が重なろうとしたその時、俺ははっとした。彰の吐息が、甘い香りがしたのだ。――そう、まるでチョコレートのような。
――甘い物嫌いなはずなのに……。誰か、女にもらったか?
でも俺は、その疑問をついに口にすることができなかった。
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