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『だめんず・うぉーくを止めるとき』番外:『手作りバレンタイン』~その4~

 二月十四日当日、俺は臨時の出張指導に出かける準備をしていた。俺が長く教えている生徒、宮川さんの紹介で、小学生の女の子を教えに行くことになったのだ。名前はリカちゃんといい、二年生。女流棋士を目指しているのだそうだ。  ――どうせ彰もいないしな。一人で家にいたって気が滅入るばっかだから、ちょうどよかった……。  とはいえ、せっかく腕を磨いたのだ。俺は準備した夕食を冷蔵庫に入れると、指導先に向かった。 「風間先生、よろしくお願いします」  迎えてくれたのは、リカちゃんの祖父だった。 「宮川さんから評判を聞きましてねえ。いや、本当は男の先生はどうかと思ったんですが、聞けば風間先生はゲイだとか。なら、安心かとね」  彼は、からからと笑った。こう正面から言われると、どう返していいかわからない。戸惑っていると、当の女の子本人が顔を出した。 「初めまして、リカです! わー、かっこいい先生でよかった!」  女に褒められても全く嬉しくない。しかも相手は小学生だ。だが、大事な新規顧客である。俺は彼女を、精一杯優しく教えてやった。指導が終わると、リカちゃんは俺に何やら紙に包まれたものを手渡した。 「先生にも、チョコあげるね! リカの手作り」 「ありがとう……。わざわざ作ってくれたの?」  前もって用意してくれていたのかな、と考えていると、リカちゃんはけろりと言った。 「気にしないで! 学校で配った残りだから」 「――あ、そう」  俺は、何だか複雑な思いでその家を後にしたのだった。肝心の恋人は俺をほったらかしにしやがり、小学生の女児からチョコをもらうなんて、変なバレンタインだと思いながら……。

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