2 / 26

第2話

 森永さんの家に付き「適度に散らかってますね!」なんて失礼なことを言いながら、ズカズカ上がり込む江崎くん。彼には遠慮という言葉はありません。 「悪かったな。男の一人暮らしなんてこんなもんだろ」 と森永さん。内心、もう少し片付けておけば……と後悔しています。 「ですね~。俺、実家なのにもっと汚いです! 母ちゃんいなけりゃ、汚部屋まっしぐらですよ~」  なんて笑って言う江崎くん。 「お前、まだ親に掃除して貰ってんの?」  さすがにそれは普通は嫌なんじゃないかと呆れる森永さん。「汚くなると、母ちゃんキレてゴミかたつけてくれるんですよね」と江崎くんは平気顔。  江崎くん甘ったれ具合と、何も気にしないおバカ加減はこうして出来たのかと納得してしまう森永さんです。  江崎くんは腹ペコに耐えきれず、テーブルの上の物を片隅に追いやって、さっそく牛丼にかぶりつきます。少し片付けてから……と思った森永さんも、江崎くんの傍若無人さに「まぁいいか」と片付けを諦めて座り、「あー、うめぇ!」なんて言いながら、まずはビールを一口。  でも、内心は平静を装うのに精一杯です。  江崎くんは何も考えてないんじゃないかと薄々気付いてはいますが、期待してしまう気持ちは止められません。わかってるんです。江崎くんのことをもう『可愛い』じゃなくて本当は『好き』になっちゃってる事。でも、きっと望みが無い事も気付いてます。気付いていても、浮つく気持ちを止められません。振られてもいい『傷ついてもいいから好きでいたい』なんて、どの歌の歌詞だよ。と思っても、そんな歌を聞いて涙を堪えなければいけない位には夢中です。  江崎くんは適当に点けたテレビを見ながらガツガツと牛丼を食べ終え、酒に手を伸ばします。選んだのは甘くないチューハイやハイボール「ビールは苦いから本当は苦手なんですよね」って笑った顔は可愛かった。  森永さんも牛丼を食べ終わり、何もしたくなくなる前にと缶詰ストックの中からつまみを出します。  それから風呂の準備をしに立ち「風呂、お湯張る?」と江崎くんに確認しますが「えー。風呂はいいっすよ。そのままで」と返されました。 「そこは入っとけよ……。シャワーでいいから、今日の仕事の汗は今日流しとけ」  下心じゃないぞ、と自分に言い聞かせながら、江崎くんをお風呂に追い立てます。 「着替えは俺のでいいよな?」  そう言いながら、これくらいはいいよな……と少し大きめのTシャツと小さめのジャージを出しました。体格の良い森永さんの服は、やや小柄な江崎くんには大きいはず。でもつい『いかにも彼シャツ』の江崎くんを見たい願望に負けてしまいました。下着は確か……と探し、小さいサイズの新しい下着を見つけます。  見つけて、少し凹みます。江崎くんが入社する少し前に付き合っていた男の為に買ったもので、半年程付き合ったところで元カレと依りを戻すからと振られた事を思い出します。そんなこともあるか、と比較的前向きに元カレの幸せを祈ったつもりで中々浮上できずにいた頃。好みの顔で「よろしくお願いします!」と挨拶した新入社員の江崎くんのへっぽこっぷりに毎日怒ったり呆れたりしながら、癒されていた事も思い出します。  感慨に浸る間もなく、カラスの行水の江崎くんがシャワーを止める音がして、慌てて脱衣所から逃げ出し、心臓はバクバクのまま平静を装ってビールを煽る森永さん。  濡れた髪のまま「お先でーす」と、無造作に江崎くん登場。思った通りにぶかぶかのTシャツ。首元からはきれいな鎖骨が覗きます。 「さすがに森永さんの服じゃ大きいですね」  森永さんの気も知らず、肘まで隠れそうなTシャツから伸びた腕で襟元をつまみ、裾を折ったジャージから覗くくるぶしを見せる江崎くん。  それ、煽ってるからね!?  予想以上の衝撃に、思わず股間がもぞもぞする森永さん。「俺もシャワー行ってくる」と逃げ出します。でもそこは狭い部屋の中。すれ違い様に江崎くんから自分の家のシャンプーの匂いがして、慌てて脱衣所のドアを閉めました。  するとそこには、脱ぎ捨てたままの江崎くんの作業着と下着が。これは拷問ですか!? 自分でシャワーを勧めておきながら、あまつさえ彼シャツを目論んでおきながら早速後悔する森永さん、32歳。脱衣所のドアに阻まれて江崎くんの姿が見えなくなった事で、これ幸いと股間は主張を始めています。さてどうしたものか、と股間を見下ろし森永さんは途方にくれます。  抜くべきか、静まるのを待つか。  抜くにはオカズが必要で、それはどうしたって今見たばかりの光景になる。けれど、抜かなければすぐにコイツが元気に……。突き付けられた選択に暫く悩む森永さん。シャワーの音に紛れて、吐息と一緒に「江崎っ」と呼んだ声は江崎本人に届く事なく、吐き出されたソレと一緒に排水溝に流れていきました。  森永さんが髪まで乾かして部屋に戻ると、思わず笑っちゃうほど我が物顔で江崎くんがくつろいでいます。とても初めて来た先輩の部屋にいるとは思えない光景です。  「充電器借りてまーす」の言葉通りにスマホは充電器に繋がれ、手元には飲みかけのハイボールの缶、本人は森永さん愛用の大型クッションの真ん中に収まり、テレビは録画してあった映画に替えられています。森永さんは焦ってパソコンを確認しますが、パソコンは触られた形跡はありません。  森永さんの閲覧履歴はノンケ男子には危険地帯。ゲイものAVの宝庫です。ホッとして「お前ちょっとは遠慮しろ」と江崎くんの足先を蹴りながら、足元のあたりに座ります。これではどちらが家主かわかりません。 「まぁまぁ、いいじゃないっすか。はいはい座って、ビール飲んでくださいよ」  そう言いながらも江崎くんは動きません。寝たまま江崎くんの手が届く範囲に並べられた酒の中からビールを森永さんに渡します。森永さんは多少イラっとしながらも、少しほっとしました。色っぽい雰囲気にはならずに済みそうです。

ともだちにシェアしよう!