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第3話
風向きがおかしくなったのは、酒も進んで映画も佳境に差し掛かった頃。テレビ画面の中では、アクション映画にそれ必要? って問いたくなるような熱烈なキスシーン。森永さんは途中からこのラブシーンの存在を思い出してヤバイと気が気でなかったのですが、悪い予感程当たります。
江崎くんは程よく酔って、程よく理性が崩れ気味のようです。女優の色っぽい吐息を聞きながら、いつの間にか江崎くんが森永さんを凝視しています。いや、森永さんの唇を凝視しています。
江崎くんは完全に思い出しています。何をって、一か月前のキスです。
森永さんは『もう三十路ですから』と何もない振りで取り繕っていただけで、本当はその事を忘れた事なんてありません。今、江崎くんに見つめられてビールの缶を煽る腕の動きすら、ギギギっと油の切れた機械を動かすみたいに感じます。
「森永さん……」
江崎くんが、掠れたような声で森永さんに呼びかけます。それはいつもの彼の声と違って、森永さんの心臓がドキンと大きく飛び跳ねるような色っぽい声でした。江崎くんの顔を見たい気持ちと見たくない気持ちが戦って、顔を向けずに視線だけを向けると、江崎くんが少し身体を起こして森永さんを見つめています。江崎くんはそのままクッションの上で足と頭の位置を入れ替えて森永さんに近付きます。江崎くんと森永さんの距離は同じままなのに、近くにあるのが足から顔に変わって森永さんは動けなくなりました。
江崎くんが、森永さんのたくましい腕を掴みます。森永さんは、思わず江崎くんと近距離で見つめ合ってしまいました。江崎くんの顔は、まるで画面の中の女優のように上気していて、酒のせい、と分かっていても勘違いしてしまいそうです。そして大きなTシャツは、下から覗き込むようにする江崎くんの乳首を隠してはくれませんでした。
森永さんの頭の中では天使と悪魔が「神様、ありがとう!!」と「本当ごめんなさい! 勘弁してください!!」と叫んでいて大混乱です。そんな森永さんにおかまいなしに、やや呂律の回らない、酔っぱらい特有の喋り方で江崎くんが切り出します。
「森永さんてぇ、キス、上手ですよねぇ……」
「そう」とも「そんなことない」とも言えず、森永さんは固まったまま。でも、江崎くんは容赦しません。
「この前、ちゅーしてくれたじゃないですかぁ。あれ、俺本当に気持ち良くって……。どうやったらあんなに気持ちいいちゅーができるんですかぁ?」
無意識なのか、わざとなのか、江崎くんが森永さんに擦り寄ります。近づく江崎くんの上気した顔、そして鎖骨越しの乳首、シャツの袖から伸びた腕……全部が森永さんを誘っているようで、もう限界です。森永さんは頭の中でパチンと風船が弾けるような音を聞きました。
「教えてやろうか?」
いつもより低い、囁くような声が出ました。森永さんの頭の片隅に残った理性が、もう止まれない、と察します。
森永さんを掴んだ江崎くんの腕を逆に掴みなおし、江崎くんを押し倒すように近付きます。二人の唇が触れ合うまで数センチ。驚いたような江崎くんが瞬きをするのを合図に、森永さんの唇が近づいて、最初は優しく、でも、すぐに奪うように江崎くんの唇を蹂躙します。
「ん……ぅ……む……」
江崎くんの鼻にかかったような吐息と、くちゅっという粘膜の音がやけに大きく聞こえます。森永さんにさっきまであった躊躇いは、すぐに間にどこかへ行ってしまったようです。
「んぁっ……」
奪われるように激しいキスに江崎くんが離れようとすると、ぐいぐいと森永さんの唇と舌が追いかけてきます。キスをされながら、あっという間に押し倒されてしまいました。江崎くんは大きなクッションの中に縫い留められて、覆いかぶさった森永さんの思うままに唇の自由を奪われています。ようやく唇が解放された時、江崎くんの舌は甘く痺れ、唇の端から涎が垂れていました。でも江崎くんはそんな事に気づく余裕すらありません。ただ、ぼうっと、今離れたばかりの森永さんの唇を見つめます。
森永さんは、江崎くんが快感に流されているのを確認すると、もう一度優しく唇にキスを落とします。今度は舌を差し込まない触れるだけのキスを繰り返しながら、そっと江崎くんの下腹を撫でます。ピクンと反応するのを確かめ、それから確信をもって江崎くんの下半身に手を伸ばします。
服の上から軽く触っただけで江崎くんの固くなりはじめたちんちんがわかって、森永さんは頬が緩みます。
森永さんは江崎くんの股間をゆるく撫で、キスの合間に「そのまま……」と囁くと、森永さんの唇は服の上から江崎くんの乳首や臍に寄り道をして、江崎くんのちんちんに辿り着きます。江崎くんは森永さんにされるがまま、時折身体をピクンと震わせ「ぁっ……」と息を詰めたり、吐息を震わせたりしています。
そこに辿り着いた森永さんは、江崎くんのちんちんを服越しに握り擦りながら、自分が何をするか見やすいように少し上体を起こさせると「自分で脱いで、見せて」と江崎くんを促します。
実は江崎くん、女の子相手にペッティングまではしたことがあるけれど、そこから先はした事のない、正真正銘の童貞くん。酒に酔って、キスに酔って、ぐらんぐらんする頭で「うわーマズイ。流されてるよ……」と他人事のように自分の状態を分析しています。だけど身体のほとんどが、キスが気持ち良かったから流されてもいいな……と思っています。
「自分で脱いで」と促されたことで、それが同意になるとうっすらと感じましたが、男同士や相手が会社の先輩なことよりも未知の快感への期待が勝ち、自ずからパンツを下ろしてしまいました。
隠しきれない期待を込めて、パンツを自分で下ろしちんちんを露わにした江崎くんを見て、森永さんは爆発寸前です。
いえ、もう、小さな火花はバチバチと散っているようです。
シャワーの時に一度抜いたのに痛いほど股間が張り詰めてくるのを感じながら、江崎くんのちんちんを両手で包み込みます。こんなにちんちんが愛しく感じるなんて……と変な感慨に耽りながら、恭しく先端にキスをすると、手と口、持っている技術の全てを使って江崎くんのちんちんを愛撫します。
ノンケの江崎くんを落とすには、ここが勝負どころ。嫌だと言われてももう引く気はありませんが、できればトロトロに気持ちよくしてあげたい。良くなかったと言われたくない。
舐めあげ、口に含み、ジュポジュポと音を立てながら森永さんは江崎くんを責め立てます。
フェラチオされるなんて思ってもみなかった江崎くんは「森永さんっ」と止めようとしますが、あまりの気持ち良さと、自分のちんちんを口に含み愛撫する森永さんの視覚の暴力に目が離せません。
「うっ……、も……り、ながさっっんっ……、ダメ……、も、ダメ……イク……っっうっ……」
早いんじゃないですかね? なんて言ってはいけません。初めてで、森永さんの全力愛撫を受けたなら、誰だってそうなるはずです。
もう少し、という所で森永さんはそっと江崎くんの後孔に手を伸ばします。ちんちんを口で愛撫しているので見ることはできませんが、そこは江崎くんの快感に合わせてひくひくと呼吸をしているようです。ちんちんを愛撫するうちに垂れた涎がぬるぬると滑って、森永さんはその滑りを使いながら襞を優しくなぞります。
「んっ……なっに……?」
全神経をちんちんに集中していた江崎くんは、突然なぞられたそれに驚きビクリと身体を揺らします。そして、森永さんの口いっぱいに頬張られたちんちんの下、お尻の穴を撫でる手の存在に気づきます。
えぇぇぇ~! お尻!? それは無理だってぇぇぇ~!!
全力で拒否しようと思いましたが、できたのはいやらしく腰を揺するだけ。
「んんっ……ダメ、……ダメです……もりながっさん……や……イヤ……ぁっ……やめて……」
懇願してみますが、これじゃあねだっているようにしか聞こえません。江崎くんは自分のいやらしくうわずった声ごとなす術なく森永さんに翻弄されます。
「あっダメ……ダメぇ……」
江崎くんの真っ白に飛びそうな頭の中で、時折チラリと冷静な自分が今の状況を覗いています。
あー、こういうの知ってる……AV女優さんがよく言ってるやつ……本当にこんなんになっちゃうんだ……。
でも、それは一瞬。すぐに快感以外何も考えられなくなってしまいます。
森永さんは、江崎くんがイってしまわないように口で調整しながら、細心の注意を払って後孔の愛撫を続けます。ちんちんを愛撫する口からたっぷりと涎を垂らし、襞をなぞった後はゆっくりと少しずつ指を含ませ抜き差しします。
「ぁっ、んんっ、んっ……、あっ……」
森永さんは、ちんちんへの刺激だけじゃなく後孔に抜き差しする指に合わせて江崎くんが感じていることを確認すると、口での愛撫を激しくして射精を促します。
「あっ……、ダっ……メ……も、イク……イ、クからぁ……っ」
ゆるゆると続いた愛撫からの突然の激しい攻めに、江崎くんは悶え抵抗できずに呆気なく達してしまいました。森永さんは吐き出される甘苦い精液を全て口で受け止めると、そのままチュルチュルと全てを吸い尽くします。
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