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第8話
カーテン越しの朝日にチュンチュンと忙しい小鳥のおしゃべりをぼんやりと遠くに聞きながら森永さんは目を覚ましました。
いつもと同じ様で違う朝。
森永さんの両腕は、抱きつくようにして温かい身体を抱き締めています。スゥスゥと愛しい寝息を立てているその人。──思い当たるのは一人で、そうだったらいいなと何度も想像した事はあるけれど実現するわけないと思っていて──とにかく、腕の中で眠るその人を起こさないようそっと髪に顔を埋めてじわじわと胸の底から溢れて来るような幸福感に浸ります。
夢うつつでほわほわと浸っているうちに、だんだんと意識がはっきりして昨日の出来事を思い出し心臓が踊り出しました。抱きしめていた幸福感はあっという間に足の裏から冷たくなるような後悔に飲みまれていきます。
やっちまった!! ダメだと思ったのに止まれなかった。思いっきり流されちまった!!
数時間前、イキ疲れて吸い込まれるように眠りについた江崎くんの身体を綺麗にしながらした後悔。
セックスして、イって、抱きしめて、その時手にした紛い物の恋人。
抱きしめたのは江崎くんの身体だけ――。
無自覚に煽る江崎くんに流されたと言っても、好きだからモノにしたかったと言っても、強引に江崎くんを丸め込んで身体だけ好きにした事実は変わりません。
そして、今のこの態勢……。
仰向けに眠る江崎くんに森永さんが横から抱き締めているというより抱き着いています。
本当に俺って奴は、女々しいのも気持ち悪く執着するのも心の中だけにしろよ。と森永さんは願望丸出しの自分の身体を窘めます。
森永さんは、抱き枕よろしく腕の中に抱き締めている江崎くんの顔をそっと覗き込みました。目を閉じて子供の様に眠る姿に、愛しさが沸き上がります。
昨日までより、もっと好きだ。
森永さんははっきりと自分の気持ちを確認して、それからこれからの事を考えました。
やっちゃった以上、今までと同じという事はないでしょう。怒られて避けられる? 無かった事にされる? ……好きになってくれたら嬉しいけれどさすがにそれは無いだろうな、と考えて一人肩を落とします。
きっと、こうして抱き締めるのはこれが最後──。そう思うと、ますます腕の中の江崎くんが愛しく感じます。
森永さんは、そっと抱き締めた江崎くんの髪にキスを落とし、それから起こさないように気をつけてベッドを降りました。江崎くんは気付かずにぐっすり眠っています。
森永さんは昨夜脱ぎ散らかした服を身に付けるとそっと部屋を出て行きました。
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