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第9話
見知らぬ天井──。ってなんかあったよな、と江崎くんは思いました。ドラマだっけ? アニメだっけ? まぁ、どちらにしてもよくあるシチュエーション、寝てるのが俺じゃなければ……!
惜しい! 寝てるの俺か!!
江崎くんは一人でボケて一人で突っ込みます。でもそれも仕方ありません。隣で寝ているはずの人がいないのですから。
昨夜……、残業終わりに森永さんの家でご飯を食べて、お酒飲みながら映画を見て……るうちにむらむらしてきて、森永さんキス上手いから教えて貰おうと思ったんだよな。それから……。
あー、ヤバイ。全部覚えてるわ。
「きゃっ! 何があったの? 私……昨日……?」って、酔った勢いで何も覚えてません! ての出来ないわ。
それをしたかったわけでは無いけれど、どうせなら『一夜の過ちフルバージョン』でやってみたかった、と江崎くんはトボケた事を考えます。
そもそも、それ、江崎くんが「きゃっ」でいいんですかね?
「はぁぁぁぁ……。凄かった……」
江崎くんは昨夜のアレコレを思い出して大きなため息をつきました。どうやら「きゃっ!」でも問題ないようです。
アレがああなってこうなって、それからアレがあんなトコロに……。しかも、めちゃくちゃ気持ちいいってナニ? 今まで考えた事もなかったけど、あんな……。ぁぁぁああああぁぁ!! あんな世界があるなんて!
こういうのって目からウロコ? 新しい扉が開いたって言うの?
「あぁぁ、どうしようっ」
乙女さながらに枕を抱き締めてゴロゴロ転がり悶える江崎くん。どうしようと言いながらも、表情は緩んで心なしか嬉しそう? しばらく悶えた後に我に返り、そこで初めて森永さんがどこに行ったのかを考えました。
間違いなく昨日来た森永さんの部屋ではあるけれど、肝心の家主の気配はどこにもありません。本人の部屋なのだから戻って来るでしょうが少し不安になりました。そして、気になってしまったらじっとしていられません。
『なにか…』と思ってもテレビやスマホを眺める気にもならず、ベッドの上でボーっとして過ごします。
昨日はやるだけやって落ちるように寝てしまいました。身体のあちこちに飛んだ精液のカピカピになった名残がない所を見ると森永さんが後始末をしてくれたようです。けれど、覚えている限りあんな所やそんな所までベロベロと舐められて、不快ではなかったけれど……。
「やっぱシャワーは浴びたいよな」
江崎くんはいつもの様に起き上がり「いてっ!」っと叫んで止まります。何だ!? と驚いて、理由に思い当たって一人で赤くなります。
初めてだったのに、あまりの気持ち良さにもっととねだって夢中になった事。あれが理由に違いありません。それにしても「こんなに痛くて普通なの?」と江崎くんは自分の身体を見分します。
尻……は、大丈夫です。尻の穴は幾分かはれている感じですが痛みはありません。尻の中はわからないけれど違和感がないし、丁寧にしてくれたので大丈夫かな。
……本当に?
江崎くんは、ついつい、つ……と人差し指を入口……いや、出口? にあてがい力を入れました。入口のきゅっとした感じに一瞬ひるみましたが、それは最初だけ。中側はぬぐい切れなかったのかぬるっとしていて、するりと指を誘い込みます。
森永さんにされた時には指一本でもたまらなくなったのに、不思議と自分の指では何も感じません。江崎くんはふにゃんと柔らかい入口の襞を撫でてみます。
……俺の尻、こんなに柔らかかったっけ!?
そもそも、尻の穴なんて固いウンコをした時くらいしか意識したことがありません。二十数年間出口と信じて疑わなかったのですからそれも当然でしょう。
だけど今触ってるこの穴……
ヤバイんじゃね!? これ、入れたら気持ちいいんじゃね??
いや、入れたら気持ちいいんだった……。なんか、中のイイ所をグイグイ押されるんだよ……。あ、違う、入れる側でね!? 入れてみたいって意味で、気持ちいいんじゃないかと……。
今までの固定観念がひっくり返ってしまった江崎くん。平静なようでいてちょっと混乱気味のようです。
そして、気持ち良かった事を思い出したおかげで、江崎くんのちんちんも「お呼びですか?」とご挨拶をしています。逡巡したものの、ここは大人しく帰ってもらおうと放置を決め込む江崎くん。
指を突っ込んだのが間違いだったと、名残惜しさを振り切って指を引き抜きます。抜いた瞬間、思わず「ぅっ」と息をつめたのは聞かなかった事に。
とりあえず、尻の穴は無事なようです。
しかし、背中? 腰? 背中と腰の境目あたりでしょうか。動くと時折ツキンと痛い。
……処女が翌朝に股が痛いっていうあれ本当なんだな、とどうでもいい事で感心します。
あれ? でも俺も処女でいいの? 童貞? ちんこ使ってないし、入れられたんだから処女? でも、男は童貞だよな。俺が捨てたのはどっちなんだ?
……それ、重要ですか? ちなみに一般的に『処女を捨てた』で良いと思いますよ。つまり、江崎くんはまだ立派な童貞です。と、それはさて置き、江崎くんはシャワーを浴びるために立ちました。ずっと痛い訳では無いけど、動くと時おり背中を痛みが駆け抜けます。ついでに、立つのは平気だけれど歩こうとするとガクガクと足元がおぼつきません。そんな自分の様子で江崎くんは確信しました。
あ、俺が捨てたの処女だ。
だって、童貞喪失の翌朝に足元のおぼつかない彼女を抱っこしてお風呂に連れて行くのを夢見ていたんですから。
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