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第12話

「森永さんっ」  いつもの朝礼の後、腕をガシッと掴まれ引き留められて森永さんは驚きました。腕を掴んでいるのは江崎くん。  森永さんは昨日行った店でポロリと江崎くんのことを友達にこぼしてしまい、相談という名の尋問を散々受けました。江崎くんのことを誤魔化したくて飲んだ酒なのに、気がつけば理性が緩んで軽くなった口からは、江崎くんがどんなに可愛いかが飛び出していました。  そんな江崎くんに予告なく腕を掴まれて、森永さんは内心動揺しまくりです。 「なんだよ、引っ張るなって」  そう言って窘める声も心なしか弱い。 「昨日、何で返事くれなかったんですか!?」 「え……、何か用事あった?」 「用はないですけど……、おつかれとか、仕事終わったとか、おやすみとか、何か返して下さいよ!」 「いや、いつも俺そんなんだろ?」 「……そうですけど、でもっ、寝るまで待ってたのに……」  怒って拗ねられ、バキューン! と森永さんの心臓は撃ち抜かれます。  江崎、可愛いにも程があるだろ!? これ以上俺を夢中にさせてどうするつりなんだよ!  ……と、そんなことを言えるわけがないので、森永さんは内心の動揺を最大限隠してポーカーフェイスを装います。 「それは、悪かったな」 「いいですけど……、今度からちゃんと返して下さいね」 「わかったよ」  何、この会話……。  森永さんは恋人にたしなめられているようでむず痒くなります。 「今夜、ご飯連れてってくれたら許します」 「それが目的か」 「違いますけど……、いいじゃないですか。行きましょうよ」 「今夜な。仕事ちゃんと終わったらな」 「はーい! 頑張ります!!」  江崎くんはさっきまでの不満はさっと散らして、元気いっぱいに笑顔で仕事に向かいます。 「張り切りすぎて失敗するなよ」  冷静に返事をしているフリをしている森永さんですが、心の中は大混乱です。  何だよ、何なんだよ? 江崎は俺に何を期待してるんだ!? ……って、メシ係か。やっちまったお詫びにメシ奢れってことか? 今日は寿司か? 焼肉か? どっちでも奢ってやるけどな……。メシで水に流してくれるならいくらでも……。  江崎くんに限っては、脅したり噂をしたりと陰でコソコソするような裏の顔があるとは思えません。だからこそ、逆に森永さんはどうして関わってくるんだろうと不安になります。  嫌われないのも、一緒にいられるのも嬉しいのだけど……。  森永さんは一日ソワソワと落ち着かないまま仕事をこなしました。江崎くんに「ちゃんと終わったら」と言った手前、自分が終わらなかったのでは先輩の沽券に関わります。ソワソワしながらもキッチリと仕事はこなして就業時間を向かえました。  一方の江崎くんはウキウキして何度かうっかりミスをしては叱られていました。森永さんは「あーぁ」とこっそり眺めていましたが、仕事のミスはミス。しかも「気を付けろ!」レベルの本当にうっかりミス。  ついには「今日はデートか? 合コンか? 浮かれすぎ!」と注意を受けている始末です。デートでも合コンでもなく、先輩の奢り飯なんですけどね。  兎にも角にも就業後二人で食事に出かけます。 「どこに行きたいんだ? 寿司か、焼き肉か? どこでもいいぞ、言ってみろ」  そう聞いて返ってきた「回転寿司」という答えに森永さんは拍子抜けしました。  そんなんでいいのか? 手を出したお詫びに奢らせるつもりなんじゃないのか? まさか一回で枯渇しないように分散してくるのか……?  でもそんなことを本人に聞くわけにもいきません。森永さんは江崎くんの気持ちが計れないまま、二人並んで回転寿司屋に向かいます。内心、いつ何を言われるかとビクビクしていた森永さんですが、江崎くんは嫌な様子を見せることなく今までと同じように、どころかむしろいつもよりしつこい……?

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