ハアハアと荒い息使いだけが部屋の中に響きます。 　力尽きた江崎くんは、脱力した森永さんの重みを心地よく受け止めていましたが、それにしても重い！　直ぐに降参して呻き声を上げました。 「ごめん」 　言いながら森永さんは江崎くんの上から身体をずらして仰向けに転がりました。江崎くんは重さから解放されて苦しくは無くなったけれど、突然に明け渡された身体に寂しさを感じます。 　そんな江崎くんの上下する胸に森永さんが触れて愛しそうに撫でました。 　ペタリと汗で張り付く手が気持ち良くて江崎くんは目を閉じます。お互いこんなに全身汗まみれで素肌で触れ合って、気持ち悪いはずなのに気持ちいい。暑さも汗も、離れてしまうのが惜しくて江崎くんが森永さんに寄り添うと、胸に当てていた手が背中に周り抱き寄せられました。 「すごい心臓の音だな」 「森永さんだって、すごい音してる……」 　森永さんの心臓の音にドキドキしながら、直接身体に響いてくる音が心地よくて江崎くんは胸に頭を乗せました。上下する胸に合わせて頭を撫でられ甘やかさます。 　江崎くんは比較的甘ったれで誰にでも甘えているし、甘やかされている自覚はありましたが、さすがにこんな風に頭を撫でられて手放しで甘やかされるのは子供の頃以来です。 　──甘やかされるって、こんなに気持ち良かったんだな……。 　うっとりと目を閉じて子守唄のような心音に身を任せます。 　江崎喜くんは女の子とは一人としか付き合った事はありませんが、彼女がよく凭れて身を任せてきたのはこういう事かと、立場を違えて初めて感じました。その時は性欲が先だってガッついてばかりで、セックスをする前に別れてしまったのだけど、もっと甘やかしてあげれば良かったと今更思います。 　だけど同時に『そういうことか』と甘やかされるのが心地よくてしっくり来る自分にも気付きました。甘やかされるのはひどく心地いい。自分は甘やかすよりも、甘やかされたいらしい。 　頭を撫でられうっとりする江崎くんに気付いて「少し、寝る？」と森永さんが聞きました。 「寝ないけど、も少しこのまま……」 　そう、うとうとしながら言ったかと思えばあっという間に江崎くんは寝息をたてはじめました。 「寝ちゃったか……」と呟いて森永さんは江崎くんの愛しい重みを受け止めます。 『優しく』と思ったのにやはり最後は優しくできませんでした。全身で甘えられて、与えられて、その甘さにあっという間に溺れてしまいました。 　色っぽさとは無縁に見える江崎くんの、無邪気な色気ははっきり言って劇薬レベル！　普段は恥じらいなんて無さそうなのに、恥じらって見せる様は心臓わしづかみです。 　あれを計算してやっているんだとしたら怖いけど、江崎の場合は天然だよなぁ……。 　頬を染めてキスをねだる姿、「もっと」と甘える声、最中の姿態を思い出します。 　そして、そんな彼が自分を好きだと言って身を委ねてくれる奇跡。 どう考えても全部が夢にしか思えないけれど、胸の上の重みは本物で──。 　腕の中の幸せを実感して大きなため息を吐きました。 　──俺、明日死ぬかも知れない……。 　あまりに馬鹿らしいと思うけれど、森永さんは本気でそう思いました。 　好きで好きで、でも手に入らないと諦めて、それでも好きでいるを止められなかった相手をこんな風に腕に抱いたのも初めてなら、そんな相手に『好きだ』と言われたのも初めてで……。 　確かに手の中にあるのに、信じられない気持ちの方が勝ってしまう。 　──これって、現実？