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第24話
余裕のあるふりで束縛プレイしてもいいなんて言いましたが、森永さんの心中だってジェットコースターです。しかも上がりっぱなしです。
奢ってくれるいいカモかセフレコースだと思っていたのに、好きだと言われて求められて……。これ以上の何かなんて落ちるとしか思えない。
なのに、縛ってみたいとか──。十割好奇心だと解ってるんですが、サービスが過ぎませんか?
性的な対象として受け入れられていることが嬉しいけれど、信じられなくて『本当に夢オチもあるんじゃないか──?』なんて考えている森永さんです。
今度は落ち着いて泡風呂を堪能し、──もちろん、泡ビキニはお互い披露したし、毛深いごっこもやりました。まったく、中学生じゃないんだから──お互いの裸を見る事に慣れた頃に泡を流して部屋へと戻ります。
そして、江崎くんは「縛ってみたい」と言ったことを思い出して、ピタリと止まりました。自分で言っておきながらどうしたらいいのか全く分かりません。
えっと、何をどうしてあそこに行けば……。
一人プチパニックになっている江崎くんを横目に、森永さんがベッドサイドに赴いて部屋の照明をリビングの明るさから、薄暗い間接照明だけに切り替えます。部屋の中は──特にSMスペースは陳腐なSMまがいなおもちゃが置かれた空間から、途端に怪しげな折檻スペースへと佇まいを変えます。
「江崎」
江崎くんは名前を呼ばれてドキリと心臓を掴まれました。
ここより明るい場所で触れ合っていた肌は、今はバスローブで隠されて布の隙間からチラリと覗いて軽々しく触れるのを拒むようで、それが一層江崎くんを誘っています。
「こっちにおいで」
いつもと変わらない口調のような気がしますが、何もかもが違って見えて、江崎くんは呼ばれるままにフラフラと森永さんに近付きました。
その、どうしていいかわからない様子に、森永さんの嗜虐心なのか被虐心なのか分からない何かに火が付きます。
「今度はリードしてくれるんだろ。どうすればいい?」
森永さんは隠しきれない笑いを含んだ声でSMスペースへと江崎くんを誘いました。
「立って? 座って? それともベッドにする?」
森永さんがチラリと目をやった先には、手足を拘束される椅子、壁の高い位置にぶら下がった手錠、それから拘束具やおもちゃの乗ったチェストが並んでいます。
江崎くんは手足を拘束する椅子を指差しました。
「椅子で。……座って下さい」
よりにもよって一番難易度が高そうなものを選んでおきながら、おずおずと指示する江崎くんに森永さんは無言で従いました。
江崎くんは手足の拘束具が付いている椅子の毒々しい赤い座面に座る森永さんに、クラ……と眩暈を起こしそうになります。
「これは、脱がなくていいのか?」
バスローブを指して言う森永さんに、ここで素裸なんて刺激が強すぎる! と「そのままで」と答えました。
「それで?」とただ、次の指示を待つ森永さん。内心面白がってるんだろうとわかっているけど、急に別人のようにはなれません。
「今に泣かせてやりますからね!」
そう言って後ろに回り椅子の背面から伸びた手錠になる皮ベルトに、それぞれ左右の腕を固定しました。緊張のあまり手が強張ってうまくベルトが通せなかったのはご愛嬌。森永さんはもちろんそのことにも気付いていましたが、そのぎこちない手つきにただひたすら心の中で可愛いを連発しています。
「腕、きつくないですか?」
後ろから顔を近づけて江崎くんが聞きました。拘束ベルトが繋がれたチェーンが小さな音を立てます。
「平気、きつくはないけど結構しっかり固定されるんだな。意外と動かせない」
森永さんはそう言いながらカシャカシャと音を立てて、拘束された手を動かして確認しています。きつくはないけれど、後ろに固定されているチェーンに邪魔されて腕は身体の横から前に伸ばすことはできません。
拘束されている。その事実にジクリと身体が熱くなります。
「足も固定しますね」
前に回った江崎くんが森永さんの足元に跪いて、足首の部分に腕と同じ皮のベルトを巻いていきます。江崎くんが触れた足がゾクゾクとして自分は拘束されているのに、まるで江崎くんにかしずかれているような錯覚に陥ります。
──マズイ……。
江崎くんが右足を固定し終わり、次に森永さんの左足にベルトをかけました。冷たい皮の感触、それから優しく触れる江崎くんの骨ばった手の感触……。
森永さんは思った以上に拘束にハマった自分を自覚しました。
バスローブの下に隠れた場所は期待に涎を垂らしてバキバキになっているはずです。
「できましたよ。どうですか?」
森永さんの足の間から見上げて江崎くんが聞きます。
「……っ。大丈夫……」
そう答える森永さんは江崎くんから視線を逸らして、心なしか息も荒くなっているようで──。さすがの江崎くんも、森永さんの変化にすぐに気付きました。
「森永さん、興奮……してるんですか?」
江崎くんが眼前のローブのふくらみを捕らえます。そして、さっきまで触れていた足をするりと撫でました。
「ん……」
森永さんは息を詰めてその感触をやり過ごします。江崎くんは、全身にドクドクと血が巡りカァっと頭が熱くなります。
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