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「おっはよ、真冬」
ポンと背中を軽く叩かれ、まどろみから現実に引き戻される。
「あ……っ、徹 ……?」
俺の背中を叩いた男……秋葉 徹は、同じ高校の友達だ。
それでいて、唯一無二の親友と呼べる相手。
――唯一、高遠原美鶴に奪われなかった……大事な友人だ。
「そうだぜ、徹だぜ? 見惚れるなよ~?」
俺よりも背が高くて、太陽みたいな……見る人全員の気持ちをあったかくさせる笑顔の持ち主。
それが、秋葉徹という男。
「見惚れないっつの、ばーか」
とても茶目っ気のある奴だ。そこらへんのチャラチャラした男とは違う。
聞いて驚け。徹はなんと……寝癖すら直してこないんだ。今日だって、ピョンピョンと髪がはねている。
――まったく……高遠原とは大違いだ。
あの男の寝癖がついた姿なんて、小さい頃にすら見たことがない。
そこまで考えて、俺は思わずハッとする。
(――朝から、誰のことを考えていた……っ?)
高遠原は、俺の幼馴染み。それでいて、俺の家のすぐ隣に住んでいる男だ。
親同士の仲が良くて、小さい頃はよく、一緒に遊んでいた。
――あの頃はまだ、嫌いじゃ……なかったから。
「真冬さぁ? 毎朝立ってないで、インターホン鳴らしたらいいのによぉ」
高遠原のことは一旦頭から追いやり、俺は徹を見上げる。
徹の家は、俺の家から歩いて数分。だけど、微妙に徹の家の方が高校に近いから、待ち合わせは徹の家の前。ちなみに今、俺がまどろんでいたのも、徹の家の前だ。
……待ち合わせ場所が徹の家なのに、何故かいつも俺の方が早く待ち合わせ場所に着くというのは、不思議なものだ。
「別に、遅刻しなければそれでいいし」
俺は、徹を急かしたりしない。徹が家を出てくるまで、外でずっと待っているのだ。
急かす理由はないし、気をつかわせたく――徹に限って、気をつかうなんてことないか。
「今、失礼なこと考えたろ?」
「何のことだか?」
とぼけていると、突然首に腕を回されてしまった。
「おまっ、徹……っ! く、苦しいって……っ!」
「うりゃうりゃ~!」
ギュッギュッと強弱をつけて俺の首を絞める徹は、笑顔だ。
しばらくそんなことをしながらじゃれ合っていると。
――突然、徹がポツリと呟いた。
「――あっ、美鶴だ」
徹の呟きを聞き、思わず。
ギュッ、と。
「……っ」
反射的に、徹の腕を強く掴んでしまった。
「真冬……」
徹が小さな声で、俺の名前を呼ぶ。
それに気付いていないフリをして、俺は自分の首から徹の腕を解く。
「……徹、行こう」
そのまま俺は、徹の腕を引いて歩き出す。
――視界に入れてなんかやるものか。
――もう、アイツに振り回されるのはごめんなんだよ。
朝から最悪の気分で歩き始めた俺の様子を見て、徹は黙って後ろからついてくる。
だけどそれだけで、徹は特になにも、言わなかった。
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