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 そんな、最悪な朝で始まった日。  ……の、放課後。 「「あ……っ」」  先生からの頼まれごとをこなしている最中のことだ。……と言ったら響きはいいが、授業中の居眠りがバレてしまった罰とも言う。  化学準備室に向かって大量のプリントを運んでいた俺は、思わず声を出してしまったのだ。 (高遠原、美鶴……っ)  徹と違い、髪の毛はきちんとセットされている。  それでいて、制服の上からでも分かる立派な体躯。  当然顔も整っていて、男なら羨ましがるだろう容貌。  そんな、見てくれだけはいい男……高遠原美鶴と、出会ってしまった。 「……諸星か」  高遠原は俺を冷たい眼差しで見ると、つまらなさそうに、名前を呼ぶ。  そのまま続くようにして……吐き捨てるように、呟いた。 「邪魔」  誰でも見れば分かるのだが、俺は今、山のようなプリントを運んでいる最中だ。  ……それを、取り巻きなんかをゾロゾロ従えて? 圧倒的に通行の邪魔で? しかも、何の制限もなく自由に動ける奴相手に? (何で『邪魔』って言われなくちゃならないんだよ……っ!)  取り巻きたちは取り巻きたちで、クスクスくすくす笑っている。ってか、なんだよその笑い方。どうせ高遠原が目の前にいなかったらゲラゲラ笑うタイプだろ、お前たち!  ……と、内心では苛立ちばかりだが。正直、面倒だから関わりたくない。 「……はぁ」  俺は道を譲ろうとして、高遠原を避けるように歩こうとした。  ――その時。 「……っ!」  俺は突然、転んでしまった。  いや。  ――【転んだ】という表現は適切じゃない。  ――【転ばされた】のだ。 「おいおい? ここには何もないぞ、諸星?」  足を引っかけてきた犯人なんて、分かっている。  ――高遠原美鶴だ。 「ホンット、ガキの頃からどんくせェよなァ?」  転ばせたのはコイツのくせに、まるで俺が勝手に一人で転んだかのような台詞。  ……猛烈に、腹が立つ。 「きゃははっ! もぉ~、美鶴くんのイジワル~」 「ふふふっ、ださぁ~いっ」  高遠原が笑い、取り巻きの女も笑う。 (……くそっ!)  心の中で、大きな悪態を吐く。  ……と、ほぼ同時に。 「――真冬くん!」  背後から、誰かが走ってくる音が聞こえてきた。  廊下に膝をついたまま、俺は背後を振り返る。 「……胡桃沢(くるみざわ)、さん」  長い髪の先端をクルンッと巻いていて、スカートからは細くて白い、綺麗な脚を覗かせた、麗人。  胡桃沢詩織(しおり)さんが、駆け寄ってきた。 「真冬くん、大丈夫?」  胡桃沢さんは、俺の周りに散らばっているプリントをせっせと拾い集める。  呆然としかけていた意識をなんとか戻し、俺は慌てて手を動かした。 「……あっ、いいよ胡桃沢さん! 俺、自分で拾うから……っ!」  そもそもこれは自分の――実際は高遠原のせいだ。  無関係の胡桃沢さんに、迷惑はかけられない。  だが胡桃沢さんは、とても気持ちのいい性格だった。

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