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 廊下に散らばったプリントを拾い集めながら、胡桃沢さんは口も動かす。 「真冬くん! 悪いのはこの馬鹿、高遠原美鶴よ! 真冬くんは悪くないって言うか、むしろコイツに拾ってもらうべきだわ!」 「「な……っ!」」  胡桃沢さんの言葉に、取り巻きたちは視線をキョロキョロと泳がせた。  高遠原相手に、こんな口を利く人……胡桃沢さん以外に、いないからだ。  それもそのはずで。 「詩織……親戚だからって、あんまり調子に乗んじゃねェぞ」 「はぁ? こんな子供じみたことしてる人には【事実】って日本語が分からないのかしら? ……あぁ、それとも? 屈んでプリントを拾うなんて芸当、お猿さん以下の知能じゃ難しいのかしらね?」  バチバチッと、二人の間に火花が見えた。……気がする。  ……そう。胡桃沢さんと高遠原は、親戚なのだ。どういう血の繋がりなのかまでは、知らないけど。  って、今はそんな話をしている場合じゃない。  二人がこれ以上ヒートアップしないよう、俺は急いでプリントを拾い、慌てて立ち上がる。 「ありがとう、胡桃沢さん。助か――」  お礼を言う俺の声を遮り、胡桃沢さんが。 「――真冬くんも真冬くんよ! 小さい頃はもっとコイツに文句とか言ってたのに、今はなによ? 何で一言も会話しようとしないのっ?」  今度は俺に噛みついてきた。……正直、驚く。  だけど……胡桃沢さんの言っていることは、俺にとって正論だ。  小さい頃の俺なら、転ばされたら高遠原の足を殴る。そして、なんとしてでも同じ様に転ばせただろう。 (『何で一言も会話しようとしないの』か……)  胡桃沢さんが、プリントを持って立ち上がる。  その様子を見て、俺は視界に絶対、高遠原を入れないようにして言った。 「――コイツと、関わりたくないからだよ。……プリント、拾ってくれてありがとう」  俺の台詞を聞いて、高遠原がどんな顔をしていたかなんて、知らない。そもそも、興味も無い。  そう断言できるくらい、俺はこの男が嫌いなんだから。 「真冬くん……」  胡桃沢さんが、悲しそうに眉尻を下げた。  なにも知らないから、胡桃沢さんは『高遠原にプリントを拾わせろ』って、言える。  でも……胡桃沢さんだってきっと、俺と同じ立場になったら分かるはずだ。  ――俺がどれだけ、高遠原に苦しめられたかを。 「……オイ、諸星」  高遠原に、名前を呼ばれた。  だけど、俺は無視して歩き出す。 「胡桃沢さん、プリントちょうだい? 自分で運ぶから」 「……ううん、持たせて」  どうやら、胡桃沢さんは落ち込んでしまったらしい。  何だかんだで、胡桃沢さんは親戚関係の高遠原に甘いんだろう。完全に【高遠原美鶴を悪】と決めつけられないんだ。  高遠原と取り巻きたちを残して、俺と胡桃沢さんはその場から立ち去った。

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