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 あれから数日後の、放課後。  靴を履き替え、さぁ帰ろうと思った瞬間。 「嘘、だろ……」  空を見上げると――いや、見上げなくても分かる。 「雨ぇっ? うそ、やだぁっ!」 「濡れちゃう~!」  この女子たちが言う通り……雨が、降り始めたのだ。  かく言う俺も、傘を持ってきていない。なので、そこで騒いでいる女子相手に『雨が降ってるだけでうるさいなぁ』とは、言えなかった。  ちなみに、朝は快晴だったのだ。それはもう、徹の家の前でうたた寝ができるくらいの、快晴。  昼休みも晴れていたから、まさか雨が降るだなんて……誰にも想像できなかっただろう。 「徹は……帰った、か」  ついさっき、徹は別の友達と一緒に歩いていた。だからたぶん、もう帰っただろう。 (この様子だと、すぐやむ……ようには、見えないしなぁ……)  濡れる覚悟を決めるか……往生際悪く、やむのを待つか。  そう、考えあぐねていると。 「――諸星?」  ――突然、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。  全身。それでいて、細胞レベルで起きているかのように思える……拒否反応。  相手なんて、分かっている。 (……高、遠原……っ)  そこには、高遠原が……一人で立っていた。  一瞬だけ向けてしまった視線を、元に戻す。  ……が。 「傘は?」  あろうことか、俺に話しかけてくるではないか。 (何で、普通に話しかけてくるんだよ……っ!)  腹立たしいことこのうえない。  だけど、反応したら負けだ。俺はそこに誰もないなかったかのように、また考え直す。 (高遠原は無視だ。……そうだな、雨……雨か。ヤッパリ、濡れるしかないかなぁ……)  脳内会議の結果……『走って帰る』が最有力候補。 (よし、帰ろう!)  そう結論付けた。  ――瞬間。 「――車を呼べばいいだろ? ……あぁ。お前には【運転してくれる人がいなかった】か」  ――高遠原が、わざとらしい挑発を向けてきた。 「……っ!」  思い切り睨みつけると、俺が反応を示して心底愉快なのか。  ――高遠原は、ニヤニヤと笑っている。  高遠原が言うように……俺には、車を運転してくれるような相手が、いない。 (――親がいないって、知ってるくせに……っ!)  いや……厳密に言えば、いる。  だが、家にはいない。 「何だよ、その目は? 俺様と関わりたくなかったんじゃないのか?」  自分から声をかけてきたくせに、高遠原はやけに強気だった。  ――反応したくなんて、ない。  ――こんな奴と、関わりたくなんてないのに……っ!  俺の頭は、高遠原から指摘された……【親がいない】という事実しか、考えられなくなった。

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