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雨が降りしきる中。
「来いッ!」
突然、腕を掴まれた。
相手なんて、ただ一人。……高遠原だ。
脈絡もなく俺の腕を強引に引っ張ると、高遠原はそのままズンズンと歩き始める。
「痛っ! 離せよっ、おいっ!」
だけど、どれだけ抵抗しても……高遠原の力には、勝てない。
俺の腕を掴み、前を歩く高遠原を見上げる。
……小さい頃は同じくらいの背丈だったのに。いつの間にか、見上げないといけないくらい……差が、ついていたなんて。
――知りたくなかった。
(こんな風に、コイツの背中を見たのなんて……いつぶりだ?)
懸命の抵抗空しく、腕を引かれるがままついていく。
すると、見覚えのある家が見えてきた。
――高遠原の家だ。
「っ! おいっ、何のつもりだよっ! いやだっ、離せって!」
――無理矢理、連れ込まれる。
そう直感した俺は、全力で高遠原を押す。
だけどどうしたって高遠原には勝てず、想像通り……無理矢理、家の中に押し込まれた。
それと同時に、玄関の扉を思い切り閉められる。
(ついに、殴られるのか? 家に連れて来たのは……人目のないところを選んだから……?)
そのままリビングなりコイツの部屋なり……もっと奥まで連れて行かれるのかと思った。
が……高遠原は靴を脱ぎ、俺を振り返らずにピシャリと言い放つ。
「そこにいろ」
それだけ伝えると、高遠原は俺を玄関に取り残した。
「……なん、だよ……マジで」
その場にしゃがみ込み、俺は俯く。
その姿勢のまま、ぼんやりと考えてみる。
(もう、アイツに振り回されるのはいやだ……っ)
本当に、分からないんだ。
高遠原になにをしたのか……いつ、嫌われたのか。
どうしてこんなことになってしまったのかも、全部。
(誰か――徹……っ!)
高遠原が俺の陰口を言いふらしていたということを……徹には、相談すらできなかった。
徹は出所の分からない噂を聞いても、俺の友達でい続けてくれる。
そして、たぶんきっと……高遠原のことも、友達だと思っているだろう。
だからこそ、言えなかった。
グチャグチャと考え込んでいた俺だったが、突然ふと……気付く。
(……いや、待てよ? 何で律儀に高遠原を待ってるんだよ、俺は)
俺は一度、余計な考えを頭の片隅に放り込んだ。
そして我に返った俺は、急いで立ち上がる。
「――わっ!」
その瞬間……頭上から、なにかが落ちてきた。
やけにフワフワなそれは……タオル、だ。
「とりあえず、拭け。風邪ひくぞ、バカ」
どうやら、高遠原が俺の頭にタオルを放り投げたらしい。
不遜な態度でそう言いつけた高遠原は、俺に放り投げたのと同じ柄のタオルで、自分の頭を拭いている。
(は……?)
勿論……意味が、分からない。
何で俺に、タオルなんかを渡してきたんだ?
――俺が、濡れていたから?
――だからって、何で?
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