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寝返りをうつ。
それと同時に、体が違和感を伝えてきた。
「ん……っ、?」
その違和感に耐えられず、俺は目を開く。
(……俺の、部屋じゃ……ない?)
だけどどこか、見覚えのある天井。
(子供の頃、高遠原の部屋に泊まったときに……見た、ような……?)
既視感の正体を、記憶から探す。
そうして、ここがどこなのか気付くと同時に。
(そうだ、ここって……っ!)
俺は、飛び起きた。
が。
「――痛っ!」
体。
と言うよりも……主に、腰の辺りに感じる、痛み。
初めて感じる痛みに、俺は思わず顔をしかめてしまった。
(何だ、これ……?)
腰を強くぶつけたときとは違う、痛み。
寝起きの思考をフル稼働させた俺は……ようやく、思い出した。
「高遠原……っ!」
憎くて、大嫌いな男。
(そうだ、俺は……アイツに……っ!)
すべてを思い出して、憎々し気な声で元凶の名を呼ぶ。
すると驚くことに……返事があった。
「何だよ」
「な……っ!」
近くに。
正確には、部屋の扉付近から聞こえた、憎むべき男の声。
「やっと起きたのか」
部屋に戻ってきたばかりのように見える高遠原は、いつの間にか着替えていたらしい。
普段着らしきラフな格好をして、なぜかペットボトルを二つ持っている。
「ホラ」
片方のペットボトルに口をつけた高遠原は、もう片方のペットボトルを俺に渡してきた。
無色透明で……おそらく、水。
喉は、正直カラカラだ。
だけど。
「要らない」
俺はツンとそっぽを向き、拒否を示した。
当然……善意を拒絶された高遠原は機嫌を損ねる。
「ハァ? せっかく持ってきたんだから飲めよ」
「お前からの物なら受け取らない」
視線を合わせず、怒りを隠しもしない。
明らかな敵意を向けて返事をする俺に対し、高遠原も好戦的だ。
「俺様がお前の為に持ってきてやったんだぞ? 素直に受け取れ、バカ」
「俺がいつ、高遠原美鶴様に頼んだんですか」
「ッとに、素直じゃねェな……」
ギシッと、ベッドが軋む。
そう気付くと同時に、高遠原が核心的な呟きを漏らした。
「どうせ、喘ぎまくったからノド渇いてるくせによォ」
「はぁ……っ?」
隣に座った高遠原の言葉に、思わず赤面してしまう。
(なっ、何でコイツは……っ! 平気でそういうことを言うんだよ……っ!)
思わず、露骨に狼狽してしまったではないか。
だがどうやら、高遠原の機嫌が直ったらしい。
俺の反応に気を良くしたのか、ニヤニヤとした笑みを浮かべ始める。
「『らめぇ、出ちゃう~』だっけ?」
「そっ、そんなこと言ってないっ! デタラメ言うなっ!」
「似たようなモンだろ。自分でペニス扱いてたクセによォ」
「お前……っ! 本当にふざけるなよっ!」
頭を撫でてこようとした高遠原の手を、思い切り払いのけた。
そして俺は素早く枕を掴み、その枕で高遠原を殴り始める。
「ばかっ、ばか野郎っ! 記憶を消してしまえっ!」
ボフボフと枕で殴っても、高遠原の顔から笑みは消えなかった。
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