24 / 83

2 : 11

 まるで、じゃれ合っているかのようなやり取り。  枕で叩かれている高遠原は、なぜかご機嫌だった。 「ハハッ! そんなに赤くなるなよ」 「なってないっ! お前の目は節穴か、ばかっ!」 「冗談なんて言ってないぜ? なんなら、鏡でも見るか?」 「死ねっ! お前なんて……っ!」  からかい続ける高遠原の顔目掛けて。 「――お前なんか、嫌いだっ! 世界で一番っ、大嫌いだっ!」  枕を、力一杯振り下ろした。  見え見えの攻撃に、高遠原は腕でガード体勢を取る。  防がれてしまったのが面白くない俺は、すぐに枕を振り上げた。  その、僅かな隙間から。 「……ッ」  見たことのない表情が、見えてしまった。  その表情を見た、瞬間。 (な、んで……っ)  一瞬だけ、息が詰まって。  胸に、覚えのない痛みが走った。  いきなり始まったセックスで忘れかけていたが、高遠原は爆弾みたいな告白をしてきたんだ。  ――小さい頃の裏切りは、俺のことが……好きだったから。  ――嫉妬心からの、行動だったと。  まとめると、高遠原はそう告白してきた。 (でも、だからって……っ)  それが本当のことだったとしても、だ。  俺は、高遠原を許すなんて……。 「真冬」  小さな胸の痛みに気を取られていると、不意に……名前を呼ばれた。  思わず、素直に高遠原の方へ顔を向けてしまう。 「え、っ」  頬に、手を添えられた。  そしてそのまま……唇を、重ねられる。 「ん……っ」  恋人にするような、優しい。  甘い、キス。 「今度は、抵抗しないんだな」  触れる程度のキスから俺を解放して、高遠原は呟く。  自嘲するような笑みを、浮かべながら。 (何でお前が、傷ついたような顔するんだよ……っ)  被害者は、俺だ。  裏切られて、冷たくされて、レイプまがいのことをされたのは……俺だぞ? 「……お前なんか、嫌いだ」 「あぁ」 「大嫌いだ……っ」 「知ってるっつの」  俺の気持ちに、高遠原は相づちを打つ。  もしも……本当に、俺のことが好きだったとしても。  だからって……俺は高遠原を許せるわけ、ない。 (徹以外の友達が離れて……俺がどれだけ、苦しかったか……っ)  寂しい気持ちを味わい続けた、子供時代。  別に、いじめではなかったけれど。  それでも……友達がいなくなったのは、寂しかった。 「そうだ」  突然思い出したかのように、高遠原がポツリと呟く。 「お前、メチャクチャぐっすり寝てたんだぜ? 今何時かわかってるか?」  高遠原の言葉にハッとし、俺は慌てて時計を探す。 「……十二時、半……っ?」 「そう。日付変わっちまったぞ」 「かっ、帰る……っ!」  腰の痛みを抱えつつ、俺はベッドから下りようと動いた。  すると。 「そういう意味じゃねェよ」  離れた俺を、高遠原が無理矢理引き寄せた。  突然のことでバランスを崩した俺は、高遠原の広い胸に、埋まってしまう。 「は、離せよっ! 俺は――」 「俺様に逆らえる立場?」 「ぐ……っ」  逆らったらきっと、さっきまでの恥ずかしいやり取りをバラされる。  俺は思わず、唇を噛んだ。

ともだちにシェアしよう!