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――不本意。
これが今の本心。
仏頂面で高遠原の前に立つと、取り巻きの女たちが俺を見た。
そして、ヒソヒソと小声で話始める。
「美鶴くんに向かって……なに、あの顔」
「そんなに仲良しってワケじゃないくせに……」
「私たちの美鶴くんに対して、失礼すぎなんだけど……」
悪い、取り巻きの女たち。
全部ハッキリ聞こえているんだ。
どうやら高遠原のファンたちは、俺の態度が気に入らないらしい。
「高遠原さん、何の用事ですか」
俺だって、この呼び出しは気に入らないんだ。
「言いたいことがあるなら、他の人引き連れないでいただけますか。ハッキリ言って迷惑です」
俺の言葉に、取り巻きたちは尚更不愉快そうだが……だから何だよ。
できる限り冷たく、不機嫌だということをアピールする。
自分を睨んでいる俺を見て、高遠原は鼻で笑った。
「フッ。……ガキくせェ挑発の仕方だなァ」
「な――」
「まぁ、それはどうでもいい。……今日も俺様の家、来いよ」
「……は、っ?」
予想外の用件。
俺と同じく、取り巻きの女たちも驚いている。……いや、お前たちが驚くのは何か違うだろ。
「俺は――」
『イエス』という返事しか、こない。
そう確信している言い方に腹が立ち、俺は『ノー』と返す。
返事をするため口を動かした俺に、高遠原が突然……顔を寄せる。
「……っ」
不意打ちの接近に、息を呑む。
だが、そんな俺の反応を、高遠原は無視した。
そのまま、近付いた唇から囁き声が漏れる。
「来なかったら、分かってるよな?」
「……っ!」
低い声で、告げられた。
『イエス』しか返事がこないと確信しているのには、ちゃんと理由があったんだ。
「……で、どうする? うち、来るよな?」
ニッと口角を上げた高遠原を、睨みつける。
勿論……睨んだところで、高遠原が怯まないのはわかっているが。
「か、考えて……お、く」
「あっそ」
満足そうに笑った高遠原は、そのまま立ち去った。
憎い男の背中を睨みつけながら、俺は最悪の想像をしてしまう。
(もしかして……これから毎週、アイツの家に行かないとだめなのか?)
そう考えるだけで、足元がフラつく。
痛いくらいに向けられた視線を気にしないようにして、俺は自分の席に戻る。
「で、で? 何の用件だったんだ?」
「嫌がらせだった……」
「美鶴が? 真冬に? ……まぁ、やりかねないか」
「そこは『そんなことないだろ』って言えよ。……言ったら怒るけど」
食べかけのパンに口をつけて、俺は徹を睨んだ。
さっきまで美味しいって思ってたパンの味が、よくわからない。
(地獄だな……)
俺は作業のように、食べかけのパンを喉に流し込んだ。
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