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4話 : すれ違うのが好き 1

 ある日の、木曜日。  昼休みだ。 「あ、真冬くーん!」  突然、女子に名前を呼ばれたのは。  俺のことを下の名前で呼ぶ女子は、一人しかいない。 「胡桃沢さん?」  胡桃沢さんはよく、俺に話しかけてくれる。  高遠原が子供の頃にしたことを、知らないのか。……もしくは、知っているからこそ関わってくれるのか。  とにかく、胡桃沢さんは優しい人だと思う。  長い髪をフワフワと揺らしながら、胡桃沢さんは俺の前で手を合わせた。 「世界史の教科書、ある? あったら貸してほしいの! 今日、世界史があるって忘れちゃってて……」 「あ、うん。あるから、今持ってくるよ」 「あるのね! よかった~! じゃあ、お邪魔しま~す!」  廊下で待っていてくれたらいいのに、胡桃沢さんはわざわざ教室までついてくる。  すると、俺のすぐ真後ろの席に座っている徹が、胡桃沢さんに気付いた。 「あれっ、詩織じゃん? わざわざどうした? ……もしかして、徹くんに会いたくなっちゃったのか~?」  徹が冗談めかしたことを言う。  だけど、胡桃沢さんはサラリと受け流す。 「教科書を忘れちゃったから、真冬くんに貸してもらうのよ」  その答えに、徹は眉を寄せた。 「んん? 何で美鶴に借りないんだ? 親戚だろ?」  ピタリと、俺は動きを止める。  確かに、それもそうだな。……そう、思ってしまったからだ。  胡桃沢さんはよく、俺にちょっとしたお願いをしてくる。 (高遠原じゃ、いや、なのか?)  俺は自分の中でそう結論を出し、机の中から世界史の教科書を取り出す。  なにも返事をしない胡桃沢さんを見上げながら、徹は笑う。 「まぁ、美鶴の教科書は使いたくないかっ!」 「何で徹はそう思う?」  ストローでジュースを飲んだ徹が、何でもないように答える。 「詩織が美鶴に頭下げるとか、想像できねぇじゃん?」 「確かに」  徹の答えも、俺と同じだった。  俺は胡桃沢さんに、世界史の教科書を渡す。  教科書を受け取った胡桃沢さんは、パッと笑顔を浮かべる。 「ありがと、真冬くん! もうっ、お姉さん助かっちゃうな!」 「『お姉さん』って……年齢、変わんないでしょ」  愛くるしく笑う胡桃沢さんは、綺麗だ。  ……それに、可愛いと思う。 (高遠原と胡桃沢さんって……一回くらい、付き合ったりしたこと……ないのかな)  いがみ合ってるけど、何だかんだで相性はいいんじゃないか。  そう考えて、すぐに首を横に振る。 (胡桃沢さんの尻にしかれる高遠原とか……想像できない)  一人で笑いをこらえていると、胡桃沢さんが突然……俺の頭を撫でてきた。 「な、なに……っ?」 「ん? よく分かんないけど、はにかんでる真冬くん可愛いな~って」  同じことを、高遠原にも言われた気がする。 『いや? 可愛いな、と思ってな?』  親戚は、言う冗談が同じらしい。

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