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 あらぬ、誤解。 「……は、い?」  俺の目の前に立っている先輩が、ニヤリと笑う。  おそらくは、この中のリーダー的存在だろう。残りの二人は、この先輩より前に出てこないから。 「あの、話が、よく……」  これでも、冷静に対応しているつもりだ。  だが、内心ではとても焦っている。 (何だ……? 見た感じ、ただ冗談を言いに来ただけ……には、見えない)  初対面の先輩が、三人。  そしてここは、人通りの少ない旧体育倉庫。  ヤッパリどうしたって……いやな予感が、する。  逃げることもできずにいる俺を見て、リーダーっぽい先輩が言葉を続けた。 「隠すなよ? お前、高遠原と付き合ってるんだろ?」 「は……っ?」  曲解すぎる言葉に、我が耳を疑う。  ――俺が高遠原と?  ――そんなこと、絶対ない! 「何の冗談ですか? 俺、高遠原とは――」  当然、俺は否定の言葉を伝えようとした。  だけど……いやな予感はどこまでも的中する。 「俺たちさぁ、知ってるんだよねぇ。高遠原美鶴と諸星くんがさ……金曜日はお泊まり、してるってこと」  毎週、金曜日。  俺は確かに、高遠原の家に行っている。  だけど……そんなこと、誰にも話してない。徹にも、胡桃沢さんにも。 (誰が、この人たちに言ったんだ……?)  別に、隠しているわけではない。  実際問題、二回目の金曜日は高遠原がわざわざ教室にまで出向いて、俺を呼んだくらいだ。  仲良しだと勘違いされるのはムカつくけど、泊まってること自体はバレてもいい。  だが、またしても……いやな予感が的中した。  ――一番、最悪な予感が。 「――キスとか、それ以上のこともしてるんだって?」 「っ!」  泊まっていることは、バレたっていい。  仲良しだって思われるのは屈辱だが、仕方ないかもしれない。  ――家でなにをしているのかバレるよりは、全然。 (どうして、先輩たちが……? 何でそんなこと、知ってるんだ……っ?)  ――この人たちは、高遠原の知り合い?  ――女子に嫌がらせを受ける方が理にかなってるし、まだマシだぞ?  ――いったい、何なんだよ……っ?  そんな疑問をぶつける時間は、与えられなかった。 「高遠原さんの大切な諸星さんが、大変なことになったら……高遠原さんは、どうするでしょうね?」  後ろに立っていた男が一人、優しそうな笑みを浮かべて呟く。 「え――」  先輩の呟きを聞いて、困惑する時間は。  ヤッパリ、なかった。 「おい」  リーダー的先輩がそう言うと。  後ろに立っていた二人の先輩が、体育倉庫に入ってきた。 「な、何ですか……っ」  片方の先輩は笑みを浮かべていて、もう一人の先輩は無表情。  だけどどっちも……なにを考えているのか、分からない。 (怖い……っ)  ただひたすらに、先輩たちが怖い。  ジリジリと後退してみるが、ただでさえ狭い倉庫。そのうえ、荒れた状態だ。  逃げられるところなんて、ない。 「ちょっと、静かにしててくださいね?」  笑みを浮かべた先輩はそう言って、制服のポケットから。 「な……っ!」  ロープを、取り出した。

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