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4 : 10 (Side 美鶴)

 ――真冬はいつから、作り笑いをするようになったんだろう。  ベッドの上で静かに寝息を立てている、最愛の幼馴染み。  真冬を眺めて、俺様はそんなことを考えた。 (いつから、こんなに……真冬を好きになってたんだ……?)  ガキの頃はいつも一緒で、そばにいるのが当たり前で。  そんな関係が一生続くと思っていた。  だけど、小学生の頃……それは、いきなり生まれたんだ。  ――真冬と、他の友達が仲良くしているのを見て。  ――腸が煮えくり返りそうになった。 (あれが『嫉妬だった』って気付いたのは……真冬に、避けられるようになってからだったな……バカくせェ)  好意に気付き。  なにもできない関係にまで、堕ちて。  自分が悔しくて、やるせなくて……何度も、他の奴で気を紛らわそうとした。  だが、秋葉と無邪気に笑い合っている真冬を見て……そんなこと、意味をなさないと気付いちまったんだ。  俺様が知ってる真冬は、思ったことが全部顔に出るような奴だった。  あれは……真冬の母親が死んだとき。  コッソリと葬式に参加して、真冬を探した。 『……! まふ――』  たぶん、あの日がきっかけ。 『…………』  近くに友達がいなくて、独りぼっち。  母親が眠っている棺桶の前で、ただ座っているだけ。  きっとあの日から……真冬は心を閉じこめる子供になった。  なにも喋らず、呼吸をしているだけの真冬を見て……愕然としたのを憶えている。  ――これが、俺様のしたこと。  ――真冬から友達を奪い取り、独りきりにさせた結果。  真冬は、泣きつける友達すら……いなかったんだ。  声をかけようとして、かけられずにいたとき。 『真冬!』  秋葉が、走ってやってきた。  ――そうだ。  ――真冬には、秋葉がいるだろ。  きっと、秋葉になら泣きつける。秋葉の前でなら、真冬は真冬らしくいられるんだ。  そう信じていた俺様は、また……目を疑った。 『静かにしないとダメだぞ、徹』  真冬が、静かに笑んでいたのだから。  なにもない、空っぽな笑顔。それを、ただただ貼りつけていた……真冬を。  ――もしも俺様が、あんな小さな嫉妬さえしていなかったら。  何度も後悔して、何度も自分を呪った。 「……んっ」  隣で寝る真冬が、吐息を漏らしながら寝返りをうつ。  その体には……憶えのないキスマークが、無数に散らばっている。 「……ッ」  ずっと、真冬を見ていた。  真冬のことを虐めようとする奴らは、俺様が牽制して。  真冬を傷つけようとする奴らは……先輩だろうと、後輩だろうと、女だろうと、牽制した。  ――だが、今の真冬は何だ?  ――どうして、体中にキスマークなんてつけている?  ――そもそも……顔の腫れは何なんだ?  寝息をたてていた真冬が、小さな声で呟く。 「……かあ、さ……ん」  目尻に涙を溜めて、ポツリとこぼすのは……俺様の名前じゃ、ない。  起こしてしまわないように、真冬を優しく抱き締める。 「好きだ、真冬……ッ」  真冬は俺様との関係を終わらせたいみたいだが、そんなのはイヤだ。  例え真冬に嫌われても、真冬が俺様の顔を見たくないのだとしても、自分勝手だと罵られても。  ――今度こそ、真冬を守れる自分になりたいんだ。 4話・すれ違うのが好き 了

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