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 俺様な暴君、高遠原美鶴は……不機嫌だ。 「オイ」  俺と徹がヒソヒソ話をしていると、俺様系男子美鶴が声をかけてくる。  俺たちはびくりと肩を震わせて、後ろを振り返った。 「……二人でなに話してんだよ。っつゥか、学校行かねェワケ?」 「いや、美鶴……そのことで、俺たちは訊きたいことがあってだな?」 「秋葉に話すことはねェよ」 「真冬! 代わってくれ!」  徹が恐る恐る声をかけたというのに、一蹴されている。  バトンタッチされた俺は、美鶴と顔を合わせないようにしながら声をかけた。 「な、なぁ。……俺たち、先週……縁、切った……よな?」 「俺様は了承してねェけど。……あと、諸星。他の奴と親し気に会話すんな」 「……え、っと……?」 「マヌケなツラだなァ、諸星。……まぁ、お前ならそういう顔も可愛いけど」  徹は俺たちのやり取りを眺めて、何とも言えない表情をしている。 「……助けて、徹」 「真冬が俺に助けを求めるのは珍しいけど、こればっかりはむりっぽい」 「薄情者……」  何で、どうしてこうなった?  俺がどんな思いで、美鶴と縁を切ろうとしたか……伝わってないのか?  頼みの綱である徹も、お手上げ状態らしい。  だが、それでも徹は勇気を出してくれたようだ。 「……美鶴、ちょっと待ってくれ」 「ンだよ、秋葉」 「正直、俺は真冬と美鶴にあったことをよく知らない。でも、二人の気持ちは分かってるつもりだ」  徹は普段、抜けているキャラだ。  だけど、俺が落ち込んでいたらそばにいてくれて……空気が読めないようで、本当は誰よりも気遣い上手で。  だから……俺と美鶴のことを、きっと……誰よりも、心配してくれていた。 「美鶴には、ちゃんと……謝ってもらいたいと思ってる。モチロン、真冬に」  徹は、俺の悪い噂を知っている。  その出所が美鶴だと、徹に言ったことはなかった。  だけど……もしかしたら。知っているのかもしれない。 「……じゃないと、俺は美鶴のことを信じられない。それに……美鶴に、手放しで真冬を預けられないんだ」 「徹……っ」  弱々しい声を出すと、美鶴の眉が寄せられた。  そして、美鶴は乱暴に頭を掻く。 「……お前の許可なんて、欲しかねェんだよ」 「美鶴、それでも――」 「だいたいなァ」  美鶴は不満げな表情をしながら、俺たちに近付いた。  正確には。 「そういう話は、本人とすればいいんだろォが」  俺に、近付いた。  美鶴は俺の腕を力強く掴み、引き寄せる。 「う、わわ……っ」  バランスを崩した俺は、思わず美鶴にもたれかかってしまう。  そうすると、美鶴が俺の耳元で……小さく、囁いた。 「……今度ちゃんと、話したい。だから、少しだけ時間をくれ」  その声は、いつもの高慢な美鶴とは違って。  ちょっとだけ……優しかった。

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