45 / 83

5 : 3

 引き寄せられ、胸にうずまり。  耳元に唇を寄せられて、囁かれる。  この光景を見て……徹が曖昧な表情をするのは当然だろう。 「と、徹っ! こ、これは違うぞ! 仲直りとかじゃないからな! お、俺はまだ、美鶴を許してない! それに、美鶴だって――」 「苗字呼びから、名前呼びに戻ってる……」 「たっ、たた、高遠原っ!」  しまった、徹が穏やかな表情を浮かべている!  この状況についていけていないのは、俺だって同じなんだ。  美鶴――じゃなくて。高遠原は俺を見限ったんじゃなかったのか?  俺が要らなくなったから、先輩に俺とのことをバラして……俺を、虐めたかったんじゃないのかよ。 (ワケわかんねぇよ……っ!)  腕を引き抜こうとしても、高遠原は放してくれない。  慌てて徹に弁解しようとしても、失敗した。  ――もう、どうなってるのかわからない……っ! 「秋葉……お前はどうせ、知ってるんだろ?」 「あ、あぁ……。美鶴の気持ち、だよな。ふわ~っとは気付いてたけど……こう、いざ、見せつけられると……」 「ちなみに俺様の本心だが、諸星との通学にお前はいない方がいいと思ってるぜ」 「マジで美鶴は昔から変わんねぇな!」  突然、徹が憤慨した様子でズンズン歩き始めてしまった。 (……え? 徹、何で置いてくんだよ!)  慌てて追いかけようとしても、高遠原が手を放してくれない。 「お前、ふざけるなよ……っ! ほんと、いきなり何なんだよ! なにが目的なんだよ!」  文句と疑問をぶつけながら、ジタバタと暴れて抵抗する。  そこまですると、ようやく解放する気になったらしい。高遠原が俺の腕から手を放した。  そして、ポツリと呟く。 「監視だ」  短く、簡潔に。 (監視……?)  所有物を監理するのは、なにも変な話じゃない。 (ヤッパリ、高遠原は……俺のこと、どう思ってるのか分かんない……)  色々と、辻褄が合わないんだ。  ――先輩たちに、俺のことをバラしたくせに。  ――俺が危害を加えられると、怒って監視し始める。 (……何で俺、ちょっとガッカリしてるんだよ……)  もしかしたら、友達に。  そんな、ありもしない幻想を抱いてしまった自分が。  ちょっとでも浮かれた自分が……とにかく、恥ずかしかった。  その日の昼休み。  徹とお弁当を食べようと思い、椅子の向きを反対にする。  すると、げんなりとした表情の徹と目が合った。 「……徹? 携帯睨んでどうしたんだよ?」 「『どうした』は俺のセリフ。……真冬、マジで……美鶴になにしたんだよ……?」 「高遠原?」  すると、徹の携帯画面を見せられる。  どうやら誰かからメッセージが届いていたらしい。それを読め……ということなんだろう。  何事かと思った俺は、徹に送られてきたメッセージを読んだ。 『昼、俺様も一緒に食う』  ――差出人は、高遠原美鶴。  どうして二人が連絡先を交換しているのかは、この際スルー。  それよりも、重要なのは……。 「……何で?」  メッセージを読み返して、もう一回読んで……更に一応、もう一回。 「……いや、本当に何で?」  何度読んでも、内容は同じ。  俺が疑問をぶつけても、徹には分からないらしい。ただただ、肩をすくめるだけ。  どうやら俺と徹は……これから、高遠原とお昼ご飯を一緒にするらしい。

ともだちにシェアしよう!