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引き寄せられ、胸にうずまり。
耳元に唇を寄せられて、囁かれる。
この光景を見て……徹が曖昧な表情をするのは当然だろう。
「と、徹っ! こ、これは違うぞ! 仲直りとかじゃないからな! お、俺はまだ、美鶴を許してない! それに、美鶴だって――」
「苗字呼びから、名前呼びに戻ってる……」
「たっ、たた、高遠原っ!」
しまった、徹が穏やかな表情を浮かべている!
この状況についていけていないのは、俺だって同じなんだ。
美鶴――じゃなくて。高遠原は俺を見限ったんじゃなかったのか?
俺が要らなくなったから、先輩に俺とのことをバラして……俺を、虐めたかったんじゃないのかよ。
(ワケわかんねぇよ……っ!)
腕を引き抜こうとしても、高遠原は放してくれない。
慌てて徹に弁解しようとしても、失敗した。
――もう、どうなってるのかわからない……っ!
「秋葉……お前はどうせ、知ってるんだろ?」
「あ、あぁ……。美鶴の気持ち、だよな。ふわ~っとは気付いてたけど……こう、いざ、見せつけられると……」
「ちなみに俺様の本心だが、諸星との通学にお前はいない方がいいと思ってるぜ」
「マジで美鶴は昔から変わんねぇな!」
突然、徹が憤慨した様子でズンズン歩き始めてしまった。
(……え? 徹、何で置いてくんだよ!)
慌てて追いかけようとしても、高遠原が手を放してくれない。
「お前、ふざけるなよ……っ! ほんと、いきなり何なんだよ! なにが目的なんだよ!」
文句と疑問をぶつけながら、ジタバタと暴れて抵抗する。
そこまですると、ようやく解放する気になったらしい。高遠原が俺の腕から手を放した。
そして、ポツリと呟く。
「監視だ」
短く、簡潔に。
(監視……?)
所有物を監理するのは、なにも変な話じゃない。
(ヤッパリ、高遠原は……俺のこと、どう思ってるのか分かんない……)
色々と、辻褄が合わないんだ。
――先輩たちに、俺のことをバラしたくせに。
――俺が危害を加えられると、怒って監視し始める。
(……何で俺、ちょっとガッカリしてるんだよ……)
もしかしたら、友達に。
そんな、ありもしない幻想を抱いてしまった自分が。
ちょっとでも浮かれた自分が……とにかく、恥ずかしかった。
その日の昼休み。
徹とお弁当を食べようと思い、椅子の向きを反対にする。
すると、げんなりとした表情の徹と目が合った。
「……徹? 携帯睨んでどうしたんだよ?」
「『どうした』は俺のセリフ。……真冬、マジで……美鶴になにしたんだよ……?」
「高遠原?」
すると、徹の携帯画面を見せられる。
どうやら誰かからメッセージが届いていたらしい。それを読め……ということなんだろう。
何事かと思った俺は、徹に送られてきたメッセージを読んだ。
『昼、俺様も一緒に食う』
――差出人は、高遠原美鶴。
どうして二人が連絡先を交換しているのかは、この際スルー。
それよりも、重要なのは……。
「……何で?」
メッセージを読み返して、もう一回読んで……更に一応、もう一回。
「……いや、本当に何で?」
何度読んでも、内容は同じ。
俺が疑問をぶつけても、徹には分からないらしい。ただただ、肩をすくめるだけ。
どうやら俺と徹は……これから、高遠原とお昼ご飯を一緒にするらしい。
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