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その日の放課後。
生徒玄関でのことだ。
「諸星」
俺の前に、取り巻きを連れていない美鶴が現れた。
「……な、に……っ?」
美鶴が俺に声をかけてくるのは、金曜日の放課後だけ。
だけど今日は、金曜日じゃない。
思わず身構えてしまうのは悪いことだと思うけど、してしまったものはしょうがないだろう。
「……お前、露骨すぎ」
「べ、別にいいだろ……っ! それより、用件言えよな……っ!」
美鶴はわざとらしい溜め息を吐いた後、俺を見下ろした。
「昼言った通り、明日からはつるまねェから」
「わ、かった……」
返事をすると、美鶴は黙り込む。
……。
…………え? それ、だけ……?
(こ、これは……俺がなにか、言わないとなのか……っ?)
このままなにも言わなかったら、美鶴はどこかに行ってしまう。
美鶴がどこに行こうと、俺には関係ない。引き止める理由もないし、話したいことだってないはずだ。
なのに。
(もう少し……まだ、美鶴と一緒に……っ)
ヤッパリ俺は、どこかおかしくなったのかもしれない。
子供の頃、俺は美鶴が一番好きだった。親友として、大事だったんだ。
だからきっと、その気持ちが再熱してるとか……そういう感じ、なんだよな……っ?
グチャグチャと答えの出ないモヤモヤを抱えていると、美鶴の足が動いた。
「みっ、つる……っ!」
「ン?」
美鶴が、ピタリと止まる。
歩き出そうとした足を止めて俺を振り返った美鶴の顔は、ヤッパリ……整っていた。
(コイツ……顔だけは、ほんと……っ)
美鶴は、カッコいい。
いつ見ても、そう思う。
「……その、えっと……」
「何だよ。……あァ、そうだ」
なにかを思い出したらしい。
美鶴は突然、自分の鞄から小さな紙袋を取り出した。
「諸星、コレ」
そのまま美鶴は、紙袋を俺に手渡す。
「俺に? ……なにこれ? 中、見ていいの?」
美鶴が頷く。
俺は美鶴に渡された紙袋を開き、中を見た。
(……ネックレス?)
紙袋の中に入っていたのは……美鶴っぽくない、シンプルなデザインのネックレス。
「……俺に? くれるの?」
「さっきからそう言ってンだろ」
もう一度確認すると、頭を掻きながら肯定された。
「じゃ」
それだけ、言い残して。
今度は立ち止まらずに、美鶴は歩いて行った。
「何なんだよ、マジで……」
美鶴がプレゼントを渡してきた意味が、分かんない。
そもそもプレゼントを渡そうと思った経緯も知らないし。
なのに、何でかなぁ……。
(メチャクチャ、緊張した……っ)
小さい頃は、美鶴相手に緊張なんてしなかったのに。
貰ったネックレスを見つめて、ポツリと呟く。
「あの顔が悪い……」
俺の文句を聞いていたのは、小さく輝くネックレスだけだった。
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