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最低限の拒絶は、しようとした。
が、先輩が三人。力で勝てるはずがない。
俺は引きずられるようにして、先輩たちに連行されて。
「……いったい、なにがしたいんですか?」
因縁の旧体育倉庫についてしまった。
睨みつけてみるも、先輩たちにはまったく効かない。
俺の反抗的な声を聞いて苛立ったのか、リーダー的先輩は俺の腕を力強く握る。
そしてそのまま、俺を地面に叩きつけた。
「うわ……っ!」
「何なんだよ、お前ッ!」
俺が呻くのと、リーダー的先輩が怒鳴ったのは……ほぼ、同時。
「――何でお前みたいな奴が、高遠原美鶴の傍にいられるんだよッ!」
……え?
「俺たちの方がッ、高遠原美鶴のことを想ってやってるのにッ! なのに、何でなんだよッ!」
先輩の言葉に、耳を疑った。
「……今、なんて……っ?」
「あぁッ? お前みたいな奴よりも、俺たちの方が高遠原美鶴に相応しいって言ってるんだよッ!」
「えっ、えっ? ど、どういう……えっ?」
ちょっと、待ってくれ。
何だか、話が変だぞ……?
先輩たちは、美鶴に恨みがあったんじゃないのか? それで、俺を傷つければ憂さ晴らしができるとか、そういうことを企んで……え、あれ?
「せ、先輩は……美鶴のこと、嫌い……なん、ですよね……っ?」
「ハァッ? なワケねーだろッ!」
「僕たちは皆、高遠原美鶴さんが好きなのですよ」
「あ~、そ~いうことだな~……」
あぁ、なるほど。美鶴のことが好きなのか。
なるほどなぁ。つまり、俺にキスマークをつけたのは美鶴に腹が立ったんじゃなくて、純粋に俺への当てつけか。
なるほどなるほど、これはさすがに予想外……。
(…………嘘だろっ!)
待ってくれ、どういうことだ?
つまり、あのとき俺は……牽制されたってことなのか?
美鶴相手じゃなくて、俺への腹いせ?
何で取り巻きの女子じゃなくて俺なんだ?
理解が追い付かないでいると、丁寧な口調で話す先輩が……俺の手をジッと見つめた。
「……ん? きみ、なにを持っているんですか?」
「っ! こ、これは――」
「没収~」
のんびりとした喋り方の先輩が、俺の手から紙袋を奪い取る。
そして、中から……ネックレスを見つけた。
――この展開は、非常にヤバイ気がする。
「まさか……高遠原美鶴、から……ッ?」
咄嗟に、言葉が出てこない。
――それが、先輩たちにとっての答えになってしまったようで。
「――クソがッ!」
――ネックレスは、地面にたたきつけられた。
「や……っ! やめてくださいっ!」
ネックレスを拾おうと、慌てて手を伸ばす。
しかしリーダー的先輩はかなり怒っているようで……俺の手ごと、ネックレスを強く踏みつけた。
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