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6話 : 大事にするのが好き 1

 先輩たちは、美鶴のことが好き。  だけど美鶴はたぶん、それを知らない。  だから腹いせに、俺が選ばれた。  ――じゃあ、先輩たちはどうやって……俺と美鶴の関係を知ったんだ?  そんな疑問を抱えながら迎えた、翌日……金曜日の、朝。 「なぁ、真冬。お前は、怪我するのが好きなのか?」  徹は開口一番、そう言った。  絆創膏をペタペタ貼ってある俺の手を見る徹から、俺は視線を逸らす。 「物が、落ちてきて……」  苦しい言い訳だ。  勘のいい徹は、きっと分かっているだろう。『真冬は今、嘘を言った』って。  だけど、徹は優しい。 「ふ~ん……へ~?」  昔からそうだ。  徹は分かっているのに、なにも言わない。  俺が訊かれたくないことは、絶対に訊かないでいてくれる。  それは、俺のことがどうでもいいからとか、嫌いだからとかじゃない。  俺のことを、すごく大事にしてくれてるから。 「鞄、持とっか?」 「いや、大丈夫。ほら、片方は無傷だろ?」 「確かに!」  無理には引きずり出さない。  俺が話せるようになるまで、待つ。  それが、徹なりの優しさだった。  放課後。  生徒玄関に向かうため、廊下を歩く。  すると、声をかけられた。 「はろろん、真冬くん!」  胡桃沢さんの、声。  後ろから聞こえた呼び声に、俺は思わず……身を強張らせてしまう。 「く、胡桃沢さん……? どうしたの?」 「なぁに、その怖ぁい顔っ!」  強張った表情に気付いた胡桃沢さんが、俺の頭をぽふぽふと撫でる。  なのに俺は、余計なことを考えてしまう。 (この前、美鶴は……胡桃沢さん、に……っ)  ――告白、していた。  ――『好きだ』って。  正直な感想を言うと……二人は確かに、お似合いだ。美男美女というやつで、絵になる。  二人が並んでいると、何となく近寄りがたいし……好き好んで隣を歩こうとは思えない。  つまり……なにもおかしいことなんて、ないんだ。 「あっ、あの……さ。胡桃沢、さん……」 「ん? なになにぃ?」  幸い、周りに人は歩いていなかった。  胡桃沢さんは明るくて、どことなく軽いテンションだ。  だから本当に訊いてしまっていいのか、不安になった。  だけど、こうしてモヤモヤしているよりはいいと思い……勇気を出す。 「胡桃沢さんって、美鶴のこ――」 「『美鶴のこと好きなの?』とか言ったら、真冬くんでも殴るよ、本気で」  極寒。  さっきまでの明るさと優しさはどこへいったのか。  胡桃沢さんの纏うオーラが、突き刺さるくらい冷たいものへと変わった。 「え……っ? き、嫌い、なの……っ?」 「ちょっと待ってよ真冬くん。……逆に訊くけど、好きになる要素ないでしょ? あんな俺様こじらせたワガママ暴君!」 「う、うぅん……」  確かに、その通りだと思う。  問いかけようとした手前、強く肯定はできないけど。 「しかも! 真冬くんに嫌がらせばっかりするじゃない、アイツ。だから大嫌いよ」 「確かに。……って、俺?」  どうしてそこで、俺の名前が?  突然出された自分の名前に驚いて、俺は小首を傾げた。

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