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小首を傾げたまま、胡桃沢さんを見つめる。
「あ、えーっと……」
すると胡桃沢さんは、明らかに動揺していた。
気まずそうに、それでいてあからさまに、視線を逸らされる。
「胡桃沢さんって、優しい人……だよ、ね」
美鶴をまだ、嫌っていたとき。
廊下でハデに転ばされたら、胡桃沢さんはすぐに助けてくれた。
俺が美鶴に虐められると、そばにいたら助けてくれる。
徹も、胡桃沢さんも……優しいんだ。
「……そんなんじゃ、ないわよ」
褒めたつもり、だった。
なのに胡桃沢さんは、俺の言葉を否定したのだ。
「ご、ごめんっ! 変な意味はなかったんだけど……気、悪くしちゃった……かな?」
慌てて謝罪の言葉を述べると、胡桃沢さんが俺に視線を向けた。
――何故か、ほっぺを赤くして。
「真冬くんって……小さい頃から、美鶴のことばっかりよね」
顔の赤い胡桃沢さんは突然、心外なことを口にする。
予想外の言葉に、俺は絶句した。
それでも、胡桃沢さんは続ける。
「小さい頃からずっとずっと、美鶴のことだけ考えてて……真冬くんは『嫌い』とか『興味ない』とか言ってたけど、あんなの……その反対にしか見えないわよ……」
「は、反対、って……?」
「だ~か~ら~っ!」
ズイッと、胡桃沢さんは距離を詰めてきた。
「――美鶴のこと、意識しまくってたでしょってこと!」
……。
…………?
……はい?
「あっ、気付いてたのはアタシだけよ? さすがに、徹も気付いてないと思う。でも、最近はあの俺様バカとなにか進展あった感じでしょ? たぶん今は徹も気付いて――」
「ま、まま、待ってまってっ! 胡桃沢さん、ちょっと待って!」
困惑する俺をどんどん置いていき、胡桃沢さんが話を続ける。
だから俺は慌てて言葉を遮って、胡桃沢さんを見た。
「……話がよく、分かんないんだけど……っ?」
「もっと分かり易く言ってほしいの? 真冬くんが、子供の頃から美鶴のこと大好きだったって話をしてるのよって?」
「いやいやいやいやっ!」
小さい頃から?
俺が、美鶴を?
だ、だいっ、だだっ、大好き?
(そうだったのかっ?)
余談だけど、小さい頃から胡桃沢さんの勘は当たるらしい。
つまり……胡桃沢さんの視点から見た俺の言動は、美鶴のことが大好きと訴えまくっていたらしくて?
俺は美鶴のことが、大好きだったと……そう、直感したんだろう。
「嫌いと好きは紙一重って言うけど、真冬くんのは相当よねぇ。子供の頃になにがあったのか知らないけど、それがよっぽどショックだったんでしょ? 拗らせちゃったのかしらね?」
「こ、こじ、らせ……っ」
本当に、そう見えていたのだろうか?
だとしたら、物凄く恥ずかしいんだけど……。
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