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俺は子供の頃、美鶴に裏切られた。
それからずっと……美鶴のことが、嫌いだったのに。
(俺、それでも美鶴のことが大好きだったのか……っ?)
ありえない。
子供の頃、俺は確かに美鶴が嫌いだったんだから。
――でも、今は?
『好きだ、真冬』
『お前、ほんっと……可愛いなァ』
『諸星、コレ』
美鶴に『好き』って言われたのは、嬉しかった。
美鶴に『可愛い』って言われると、こそばゆいけど嫌じゃなくて。
美鶴にプレゼントを貰ったら、そのことばっかり考えてた。
(……いや、いやっ! これは、違う……っ!)
セックスしてるから、恋人みたいな感覚と勘違いしてるだけ。
俺は美鶴に脅されて、仕方なく抱かれてるだけだし。
子供の頃、美鶴が俺から友達奪ったのを忘れたのか?
……でも、美鶴は俺のことが好きで……ヤキモチで、奪ったって。
でもでも! 美鶴は胡桃沢さんにも『好きだ』って言ってたじゃないか!
……そもそも何で、俺以外の奴にも言うんだよ。
(……ど、どうしたんだ、俺っ!)
考えれば考えるほど、思考がドツボにはまっていく。
美鶴を許しちゃダメなはずなのに、美鶴のことを考えるともぞもぞふわふわモヤモヤするのは何だ?
――俺、本当に……美鶴のこと、が……っ?
「真冬くん、どうしたの? 百面相なんかして」
「ぅえっ?」
慌てて両手で顔を隠すと、胡桃沢さんが眉尻を下げた。
「……ヤッパリ、美鶴のこと……好き、なんだね」
「その件については絶賛こんがらがり中だからっ!」
「じゃあそういうことにしておこっかな~?」
胡桃沢さんは楽しそうに、語尾を弾ませる。
だけど……表情は、どことなく暗い。
「……胡桃沢さん、もしかして――」
「美鶴のことは好きじゃないし、むしろ大嫌いってもう一回言わせたいのかな~?」
「ご、ごめん……っ」
暗い顔をしているから、思い当たることを言おうとしたら怒られた。
じゃあ、何で胡桃沢さんは落ち込んでいるんだろう。
「真冬くんがね、美鶴のこと好きだって……子供の頃から、なんとなぁく知ってたよ? ……でも、ヤッパリ、認められなかったの……」
そうか、やっとわかったぞ。
胡桃沢さんは美鶴のことが嫌い。だから、俺が美鶴のことを好き……? なのが、納得できないんだ。
胡桃沢さんがどうして暗い表情をしているのか理解した俺は、心の中でウンウンと頷く。
「胡桃沢さん、落ち着いて聞いてほしい。確かに美鶴は、横暴で俺様でワガママいっぱいで思いやりもないし、自分至上主義な奴だけど……いいところも、ちょっとは……ある、と、思う……?」
「……うん、分かるよ」
よかった、分かってくれたらしい。
我ながら苦しい説明だったし、結局なにを伝えたいのかまとまってすらいないけど――。
「でも、それでも……アタシは……っ!」
俺が心の中でガッツポーズをしたのと。
胡桃沢さんが俺に抱きついてきたのは。
ほぼ、同時だった。
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