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俺が、美鶴のことを好きなのか。
胡桃沢さんに、美鶴をどう思ってほしい。
そんな、色々の……言葉にできないモヤモヤ。
そういうの、全部。
「くっ、胡桃沢さん……っ?」
吹き飛んでしまった。
女の子に抱きつかれたのなんて、生まれて初めてだ。
柔らかくて、甘い匂いがして……美鶴の体とは、全然違う。
慌てて抱き留めると、胡桃沢さんが首を横に振った。
「詩織……っ!」
胡桃沢さんはいきなり、自分の下の名前を告白する。
「詩織って、呼んでほしいの……っ! アタシ、真冬くんに……そう呼ばれたこと、一度もないんだよ……っ!」
胡桃沢さんの言う通り。
確かに俺は、胡桃沢さんのことを……下の名前で呼んでいない。
だけど、それとこの抱きつきに何の関係があるのか。
その疑問は……胡桃沢さんの言葉で、解決してしまった。
「好き、なの……っ! ずっと、真冬くんが……真冬くんのことだけが、好きだったのっ!」
聞き間違えるはずのない。
感極まったような。
自分の耳や、言葉を疑う余地なんて微塵もありはしない。
そんな、告白。
「……え、っ?」
あまりにも唐突すぎる告白に、俺は言葉を失くす。
胡桃沢さんが。
俺のことを。
……好き?
(てっきり……胡桃沢さんは、美鶴が好きなんだと思ってた……っ)
口に出したら今度こそ叩かれそうだけど、それは俺の本心だ。
だから、まさか……俺のことをそんな風に思っていたなんて。
全くの、想定外。
「お、俺……っ」
胡桃沢さんは、美人で明るくて……優しい、友達。
美鶴と仲違いしても、親戚だからって理由で美鶴を庇わず。俺を、守ろうとしてくれた。
本当に大切な、友達。
(でも、じゃあ……あの、電話は……っ?)
美鶴はハッキリと、胡桃沢さんに告白していたじゃないか。
それを、胡桃沢さんは断ったってこと?
俺のことが好きだから?
じゃあ、それじゃあ……っ。
(美鶴、は……っ?)
分かってる。今大事なのは、胡桃沢さんの告白だって。
分かってるんだ。今は、美鶴のことを考えている場合じゃないってことくらい。
だけど、考えてしまうんだ。
――美鶴が好きなのは、誰なんだろうって。
――ここで告白を断ったら、美鶴はどう思うのか。
――美鶴は……俺のこと、好き……っ?
(俺は……っ)
答えが、見つからない。
胡桃沢さんのことを考えなくちゃいけないのに、美鶴のことばかり考えてしまう。
胡桃沢さんへの答えは、決まっている。それは、分かっているけど。
何て答えたらいいのか分からなくて、俺は胡桃沢さんから手を放した。
すると。
「――あぁっ、もうっ!」
何故か。
――バシッ! と。
力強く、頬を……はたかれた。
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