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俺は今、胡桃沢さんに告白された。
そして何故か……頬を、叩かれたところだ。
「え……っ?」
ジンジンと痛む頬を押さえて、胡桃沢さんを見下ろす。
そうすると……胡桃沢さんの鋭い眼光と、視線が絡まった。
「そこはっ! ハッキリとっ! 『美鶴のことが大好きだぁっ!』って、言うところでしょっ!」
「えぇ……っ?」
何故はたかれたのか分からず、呆然と立ち尽くす。
戸惑う俺から、胡桃沢さんは距離をとった。
そしてそのまま、胡桃沢さんはビシッと、俺を指さす。
「ウジウジしないでよね、真冬くんっ! 見ててイライラするのっ! なに心揺らいじゃってるのよっ! バッカじゃないのっ!」
言葉を詰まらせたのは、本当だけど。
(そ、そこまで言わなくたっていいと思う……っ!)
酷い言われようだ……っ!
確かに、一瞬……ドキッとはした。女の子から告白されたのなんて初めてだったし、胡桃沢さんのことは嫌いじゃない。
だからこそ答えに詰まったというのに、胡桃沢さんの怒り方はなんだか予想の斜め上じゃないか……っ!
腕を組んだ胡桃沢さんは、ツンとして言葉を続ける。
「美鶴に言ってみたら? 今日、胡桃沢さんに告白されたって。そしたら、私も、美鶴も……たぶん、真冬くんも。グチャグチャしてたもの全部、ぜ~んぶ! 楽になると思うわよ!」
楽に、なると……?
……まさか。
「俺と美鶴のために……演技、した……の?」
昔からそうだった。
俺と美鶴が喧嘩をしたとき。いつだって仲直りするようにって……二人の間に入ってくれたのは。
――胡桃沢さんだった。
『真冬くんも真冬くんよ! 小さい頃はもっとコイツに文句とか言ってたのに、今はなによ? 何で一言も会話しようとしないのっ?』
自分よりも他人を優先して、他人の心配ばかりする。
だからって、こんなことまで……っ?
「……そう、演技よ、演技! どう? 迫真の告白だったでしょ!」
「う、うん。……メチャクチャ信じた……っ」
「信じてもらわなくちゃ意味ないから、当然よね?」
ここまで捨て身になって、俺の背中を押してくれたんだ。
いつまでも、グチャグチャと一人で考えるのは……やめよう。
……でも。
「俺……胡桃沢さんに告白されたって、言わない」
「はぁっ? それじゃあ何の為にアタシが――」
胡桃沢さんが、文句を言う。
その言葉を遮って、俺は……ヘラッと、笑みを浮かべてみた。
「『詩織に告白された』って、言うよ」
「……っ!」
胡桃沢――詩織が息を呑んだのが、ハッキリと伝わる。
「あ、あれ……っ? もしかして、下の名前で呼んでほしいのあたりも演技だったり、冗談だった……? ご、ごめん」
「い、いや、えっと……っ。みっ、美鶴と徹のことは下の名前で呼んでるんだし、アタシのことだけ仲間外れにされるのはイヤ、かな……」
「確かに、それもそうかも……。わかったよ、詩織」
笑顔を浮かべたまま、俺は詩織に手を振った。
「今日、美鶴と約束してる日だから。……だから、頑張る。ありがとう、詩織……っ!」
生徒玄関に向かって、俺は走り出す。
だから、知らなかったんだ。
「諦めようって、思ったのに……っ。真冬くんの、ばか……っ!」
詩織がなにかを呟いていたことが。
そして詩織が、何て呟いたのか。
俺には……聞こえなかったから。
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