61 / 83
6 : 6
下駄箱から、外靴を取り出す。
履き替えようとしたとき、名前を呼ばれた。
「諸星」
「……美鶴?」
思わず、詩織の言葉を思い出す。
『もっと分かり易く言ってほしいの? 真冬くんが、子供の頃から美鶴のこと大好きだったって話をしてるのよって?』
好き……好き、なのか?
今、美鶴に声をかけられて……胸の辺りが、こう……ムズムズしたのは……好きだから?
「なに? 歩きながら聞くから、早く行こう」
自分でもビックリするくらい、素っ気無い返事。
いや、だって、俺……美鶴のこと、好きかどうか分かんないし。
急に優しくとか、デレ? とか……よく、分からない。
靴を履き替えた俺に、美鶴が近寄る。
(ぅ、わ……っ)
胸が、痛い。
でも悲しいとかそういう痛みじゃなくて、緊張みたいな痛み。
美鶴が近寄ってくると……緊張するのか、俺は。
近寄ってきた美鶴が、俺の腕を掴む。
「この手、どうした?」
不遜な態度を崩さない美鶴は、俺の言葉を無視した。
そのまま、怪我をしている俺の手について質問をしてくる。
「えっと……」
俺は慌てて、背中に手を隠す。
「また、物が……落ちてきて」
「そういうウソは要らねェ。……いいから、サッサと答えろ」
隠した腕を、もう一度掴まれる。
そのまま美鶴は、自分の視界に入るよう、俺の手を引っ張った。
「やめ、っ!」
美鶴の指が、手に触れる。
思わず、痛みに顔をしかめてしまう。
そうすると……美鶴は、手を放してくれた。
「誰にやられた?」
「だから――」
「ウソ吐いたらここで犯すぞ」
効果てきめんすぎる脅しに、俺は言葉を詰まらせる。
(また、所有物扱いかよ……っ)
俺が美鶴を好きとか、そういうことを悩んでいる場合じゃない。
そもそも……俺は。
「美鶴、教えてくれよ。……お前は俺のこと、本当はどう思ってるんだ?」
――美鶴がなにを考えているのか、分からないんだ。
予想外の質問だったんだろう。珍しく、美鶴が目を丸くしている。
「俺、分かんないんだよ。……美鶴は俺を好きって言ってたのに、電話で詩織に好きって言ってるし……俺のこと、そうやって物扱いするし……っ」
周りの人に聞こえないよう、小声で話す。
でも、目の前にいる美鶴には聞こえてくれたらしい。
美鶴は驚いて、それできっと、俺のこと――。
「――詩織に好きって言ったって、何の話だ?」
俺は今、美鶴と同じような表情をしているだろう。
だって……だ、って。
「俺様は詩織のことなんか好きじゃねェ。あんな奴こっちから願い下げだ」
「で、でも、この前の電話……俺、聞いてて――」
「勘違いと加害妄想で突っ走ってるだけだろ、バカか」
「か……っ?」
どうやら、俺は。
取り返しのつかないことをしていたらしい。
ともだちにシェアしよう!