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以心伝心って、こういうことなのかな。
思わずそう、笑ってしまいそうになった。
「……よう、諸星真冬くん」
旧体育倉庫には既に、三人組の先輩が立っている。
俺はてっきり……先輩たちは怒っているんだと思っていた。
でも、何だか……?
(上機嫌に見えるのは、何でだ?)
どこか、ご満悦そうな表情だ。
その理由を、リーダー的先輩が教えてくれた。
「お前、胡桃沢詩織って女に告白されてただろ?」
さっきの告白を、聞いていたらしい。
詩織がしてくれた、演技の告白。きっと途中までしか聞いていないから、あの告白を本物だと思っているんだろう。
俺はなにも答えず、先輩たちを見上げる。
「あれだけの美人さんです。もう、高遠原さんに近寄る理由はありませんよね?」
「最初からさ~……美鶴さんと貴方は~? ただの幼馴染み、だったんだし~?」
本当に、途中までしか聞いていないんだ。
俺が告白をオーケーしたと思っているんだろう。そして、それなら俺を許すとでも言いたげだ。
――詩織が、俺に与えてくれた勇気。
――それをないがしろにされているみたいで、すごく……ムカつく。
「……俺も、先輩たちに訊きたいことがあったんです」
「へぇ? 言ってみろよ。今はゴキゲンだからな、答えてやるかもな?」
「なら、答えてもらいますよ。……先輩たちは、俺と美鶴が泊まりをしてるって、誰から聞いたんですか」
――これで、美鶴が犯人じゃなかったら。
三人は、一瞬だけ口を閉ざした。
だけどすぐに、リーダー的先輩が口を開いた。
「――誰にも」
それは、少しだけ……予想外の返事だ。
想定していなかった答えに、言葉が出てこない。
そうすると、丁寧な口調の先輩が続けた。
「カマをかけたんですよ。貴方たちが一緒に帰っているのも、行き先が高遠原さんの家なのも知っていたので」
それだけの情報で、あんなに自信満々な態度だったのか。……役者に向いてると思う。
「なら、もう一個。……先輩たちは、美鶴になにをされたんですか。どうして俺のことを目の敵にして、どうして……美鶴を、挑発しようとしたんですか」
好きになったなら、告白をするとかただ見ているだけとか……色々なやり方があるだろう。
なのにこの人たちは、まるで美鶴のことを……恨んでいるみたいだった。
『――これは、お前がしたことの報いだ』
あの言葉は、どういう意味だったんだろう。
見当もつかない質問の答えを、今度はのんびりとした口調の先輩が……答えた。
――あまりにも、バカげた答えを。
「――ボクたちを惚れさせたくせに~……放置したんだよね~」
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