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恋は、落ちるもの。
自分の意思じゃどうにもできないし、相手に非もない。
すごく不思議で、すごく勝手。
俺の中で【恋】のイメージは、そんな感じ。
でも、これは……あまりにも。
「そ、んな……理由、で……っ?」
横暴とか、自分勝手とか、ワガママとか。
そういうのには、慣れているつもりだった。
だけど、これは……美鶴のとは、全然違う。
「そん、なの……っ! 美鶴はっ! なにも悪くないじゃないですかっ!」
この人たちは、演技が上手なんかじゃない。
――この人たちは……思い込みが、激しいんだ。
「何だよ、いきな――」
「勝手に好きになったくせに、美鶴が振り向いてくれないから八つ当たりとか……バカじゃないですかっ! そんなの、俺、メチャクチャ無関係じゃないですかっ!」
「無関係じゃありません。貴方が、高遠原さんを寝取ったのでしょう?」
「そう思うんだったら自分たちからアプローチするなりなんなりしたらよかったじゃないですかっ!」
なんて、茶番だろう。
勝手に片想いして、アタックもしてないのに振り向かれないと拗ねて。
この人たちも、美鶴も……みんな、みんな……っ!
「――アンタたちは大バカヤロウだっ!」
美鶴もバカだ。
子供の頃、俺のことが好きだったんなら……酷いことなんかしないで、最初からそう言ってくれたらよかったのに。
そうしたら、俺は……美鶴のことを、嫌わなかった。
――きっと、もっと、早く……好きに、なってたのに。
子供の頃から、恋愛沙汰でトラブルに遭うって呪いでもかかっているのかもしれない。近いうちにお祓いでも行こう、そうしよう。
怒鳴ったことで、頭はやけにクリアだ。俺は肩で息をしながら、先輩たちを睨む。
そこでようやく、自分の立場を思い出した。
「……テメェ、随分と生意気なこと言うじゃねェか……ッ!」
リーダー的先輩が、青筋を立てながら俺を睨んでいる。
そんな先輩が、手を振りかざしたんだってことに気付いたとき。
「――俺たちがこれだけ想ってるなら、あっちもそうに違いないだろうがッ!」
俺は思い切り、顔を殴られた。
「う……っ!」
鈍い痛みが広がる。
八つ当たりだとか、逆切れだとか……そんなことを言ってる場合じゃないのは、さすがに分かった。
「テメェには胡桃沢って女がいるんだろッ! だったら、俺たちが誰をどう想おうが関係ねェだろォがッ!」
もう一発、顔を殴られる。
よろめいても、絶対に倒れてなんかやらない。
――こんなに一方的な想いが、恋?
――正当な理由もなく、美鶴を悪者にしている……この人たちの、これが?
だったら、絶対に……っ。
「――俺の方がっ! 美鶴のこと……好きに決まってるっ!」
俺のモヤモヤしてる気持ちの方が、よっぽど恋らしいじゃないか。
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