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 顔を殴られても、俺は倒れなかった。  そのことに、先輩たちは苛立ちが募っているようだ。 「……ハァ? あの女の告白を、断ったってことかよ……ッ」 「えぇ、そうです」 「まさか……高遠原さんのことが? あれだけ嫌っていたくせに、何でいきなり……っ」 「今だって、美鶴のことなんか好きじゃないです」 「……はい~?」  支離滅裂だって、分かってる。  だって俺、初恋すらまだなんだぞ? 人を恋愛的な意味で好きになるっていうのは、よく分からない。  だけど……この人たちよりは、美鶴のことが好きだと思う。これは、絶対。  それが恋愛的な好きかと訊かれたら……もう少し、時間がほしいってだけだ。  そうだよ。皆、ゼロか百しかないっておかしいじゃないか。  好きになったら奪い取るとか、好きなら速攻ゴールインとか……バカじゃないか?  恋愛って、もっと……モヤモヤして、ムズムズして……そういうものだろ? (にしても、だ。……啖呵を切ったのは、いいけど……っ)  この後、どうするべきなのか。正直、正答が分からない。  三対一って、絶対一の方が不利だよな。つまり、俺は不利。  そもそも何で俺、美鶴なんかのために殴られなくちゃいけないんだよ? さっきも言ったけど、俺って絶対被害者だよな?  ……あぁ、もうっ! 「――美鶴の、バカヤロウ……っ!」  誰に言うでもなく、呟いた悪態。  それに。 「――誰が『バカヤロウ』だって?」  返事がくるなんて、思ってなかった。  先輩たちが、俺――よりもっと奥を見て、硬直している。  ファイティングポーズをとっている俺の肩に、誰かの手が置かれた。  先輩たちの表情と、さっき聞こえた……声。  この肩に置かれた手が誰のものかなんて、考えなくても分かる。 「……な、んで……っ?」  ――追いかけてきたら、嫌いになるって言ったじゃないか。  ――一緒にいちゃダメって、言ったのに。  話題の、中心人物。 「――今度は、お前を守れるようになりてェんだよ」  高遠原美鶴はそう言って、不機嫌そうな表情を浮かべた。  ――守るって何だよ。  ――俺、お前のせいで最悪な人生だったんだぞ?  ――今だって、殴られたところがメチャクチャ痛いし。  文句は、ビックリするくらい溢れてくる。  なのにどれも、言葉にならない。 「「「……ッ」」」  震えている先輩たちが、あまりにも……可哀想だったから。 「……誰か知らねェけどよォ」  低い声で、美鶴が唸るように呟く。  俺の肩を抱いて、美鶴は先輩たちを睨んだ。 「コイツに手ェ出すのは、間違ってんじゃねェの」  好きな人から向けられる、冷たい瞳。  想像しかできないけど……たぶん、すごく……怖い。 「俺様のことが好きだか何だかって聞こえたが、だったら答えは『ごめんなさい』だ。真正面からこねェ奴は特にそうなんだよ。ガキの頃からな」  チラリと、美鶴を見上げる。 「昔の自分を見てるみたいで、イライラする……ッ」  こんなに怒ってる美鶴を見るのは、初めてだった。

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