66 / 83
6 : 11
腕を引かれて、歩き出す。
向かっているのは、美鶴の家。
「美鶴、待てって……っ! 足、速い……っ!」
ズンズンと進んでいく美鶴についていくことで、精一杯。
だけど俺は何とか声を張り上げて、前を歩く美鶴を呼んだ。
「……部屋で聞いてやる」
美鶴がようやく立ち止まってくれたのは、家の前。
乱暴に鍵を開けて、玄関に入る。そして美鶴は乱雑に靴を脱ぎ散らかし、俺の腕を再度、引いた。
「美つ――わっ!」
部屋に着くや否や、美鶴が突然。
「真冬……ッ」
俺を、抱き締める。
痛いくらい、強くて。
だけど悲しいくらい、優しく。
美鶴に抱き締められるのなんて、今じゃもう珍しくないけど。
「……美鶴?」
「お前、ケガしすぎなんだよ……ッ」
「好きでケガしてるみたいな言い方するなよ……っ」
美鶴の中にすっぽりと収まったまま、俺は身じろぎもせず受け入れる。
「手、背中に回せ」
「……ワガママすぎ」
だけど……お望み通り、抱き締め返す。
美鶴は俺を抱き締めたまま、囁くように呟いた。
「何で、詩織のこと下の名前で呼んでるんだ」
震えているわけじゃないのに、どこか情けない声。
思わず、ポンポンと……美鶴の背中を軽く叩く。
「……詩織に、告白されたんだ。それで、下の名前で呼んでって言われた」
演技の告白、だったけど。
でも、今はこう言うべきなんだろう。
それが……詩織の望みでもあるから。
美鶴は「へェ」とつまらなさそうに呟いた後。
「返事は」
俺のことを更に強く、抱き締めた。
――分かんないんだよ。
――お前は、俺のこと……。
「断ったよ」
もう一度、あやすように背中を叩く。
「好きな奴でもいるのかよ」
「俺ばっかり答えて、不公平だ。……美鶴こそ、俺の質問に答えろよな」
「俺様の質問の方が先だ」
「いや、俺の方が先だったぞ」
口を閉ざすと、美鶴も口を閉ざした。
だけど、俺がなにも喋るつもりがないと気付いたのだろう。
「……質問って、何の話だ」
悔しそうに、美鶴はそう呟いた。
その様子が何だか可笑しくて、口角が上がってしまう。美鶴にはきっと、見えていないだろうけど。
「だから。……美鶴は、俺のこと……本当は、どう思ってるんだって話」
努めて平静さを装って、同じ質問を投げかける。
生徒玄関では、勢いに任せて訊けた。
だけど今は、勢い任せじゃない。
さっきとは、状況が違う。だから……逃げることだって、できない。
(心臓、潰れそう……っ)
怖いくらいの緊張と、不安感。
それでも美鶴の答えが知りたくて。
俺は小さく、深呼吸をした。
ともだちにシェアしよう!