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 腕を引かれて、歩き出す。  向かっているのは、美鶴の家。 「美鶴、待てって……っ! 足、速い……っ!」  ズンズンと進んでいく美鶴についていくことで、精一杯。  だけど俺は何とか声を張り上げて、前を歩く美鶴を呼んだ。 「……部屋で聞いてやる」  美鶴がようやく立ち止まってくれたのは、家の前。  乱暴に鍵を開けて、玄関に入る。そして美鶴は乱雑に靴を脱ぎ散らかし、俺の腕を再度、引いた。 「美つ――わっ!」  部屋に着くや否や、美鶴が突然。 「真冬……ッ」  俺を、抱き締める。  痛いくらい、強くて。  だけど悲しいくらい、優しく。  美鶴に抱き締められるのなんて、今じゃもう珍しくないけど。 「……美鶴?」 「お前、ケガしすぎなんだよ……ッ」 「好きでケガしてるみたいな言い方するなよ……っ」  美鶴の中にすっぽりと収まったまま、俺は身じろぎもせず受け入れる。 「手、背中に回せ」 「……ワガママすぎ」  だけど……お望み通り、抱き締め返す。  美鶴は俺を抱き締めたまま、囁くように呟いた。 「何で、詩織のこと下の名前で呼んでるんだ」  震えているわけじゃないのに、どこか情けない声。  思わず、ポンポンと……美鶴の背中を軽く叩く。 「……詩織に、告白されたんだ。それで、下の名前で呼んでって言われた」  演技の告白、だったけど。  でも、今はこう言うべきなんだろう。  それが……詩織の望みでもあるから。  美鶴は「へェ」とつまらなさそうに呟いた後。 「返事は」  俺のことを更に強く、抱き締めた。  ――分かんないんだよ。  ――お前は、俺のこと……。 「断ったよ」  もう一度、あやすように背中を叩く。 「好きな奴でもいるのかよ」 「俺ばっかり答えて、不公平だ。……美鶴こそ、俺の質問に答えろよな」 「俺様の質問の方が先だ」 「いや、俺の方が先だったぞ」  口を閉ざすと、美鶴も口を閉ざした。  だけど、俺がなにも喋るつもりがないと気付いたのだろう。 「……質問って、何の話だ」  悔しそうに、美鶴はそう呟いた。  その様子が何だか可笑しくて、口角が上がってしまう。美鶴にはきっと、見えていないだろうけど。 「だから。……美鶴は、俺のこと……本当は、どう思ってるんだって話」  努めて平静さを装って、同じ質問を投げかける。  生徒玄関では、勢いに任せて訊けた。  だけど今は、勢い任せじゃない。  さっきとは、状況が違う。だから……逃げることだって、できない。 (心臓、潰れそう……っ)  怖いくらいの緊張と、不安感。  それでも美鶴の答えが知りたくて。  俺は小さく、深呼吸をした。

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