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最終話 : 嫌がらせが好き 1
翌日の朝。
「電話で言ってた『好き』は、詩織じゃなくて俺に対してだったってっ?」
衝撃的な事実から、一日が始まった。
美鶴の話をまとめると、こういうことらしい。
あの夜……俺にキスマークをつけた犯人を見つけるため、美鶴と詩織は電話で情報交換をしていた。
そこで、詩織が。
『ぜ~ったい! アンタ関連の恋愛沙汰に決まってるわよっ! 真冬くんは被害者だわっ! この最低男っ!』
と罵ったことが、脱線のきっかけ。
そこから詩織にあーだこーだと文句を言われた挙句。
『そろそろハッキリさせましょうっ? 美鶴。アンタってヤッパリ、真冬くんのこと好きなんでしょっ!』
その答えが、アレ。
……こんな勘違いが、あっていいのだろうか。
ベッタベタのベタ展開すぎて、言葉が出てこない。
ちなみに余談だが、美鶴が突然行動を共にしてきたのは犯人の目星をつけるためだったらしい。それで、ある程度絞り込めたから、離れた……と。
離れたことによって、相手が動いたら確定。だと思ったが、まさか暴行されるとは思っていなかったらしい。……気、抜きすぎだろ。
……話を戻そう。
俺の勘違いを解いた美鶴だが、かなりご立腹のようだ。
「なのにお前は、俺様が詩織を好きだとかって誤解しやがるし……こんな屈辱、許せるかっつの」
「そ、れは――」
「挙句の果てに、お前は秋葉とベッタリだったろォが……ッ! っつゥか、俺様がプレゼントしてやったネックレスはどうした? 何で身に着けてねェんだよ」
「諸事情で、ちょっと……っ」
あのネックレスは、純粋なプレゼントじゃなくて。
……もしかして、徹や詩織に対抗していた……とか?
そう思うと……何か、メチャクチャ可愛く思えてくる。
「……ンだよ、真冬。ニヤニヤして」
思わず頬が緩んでいたらしい。
笑っている俺を見て、美鶴が不可解そうにしている。
俺は笑みを浮かべたまま、隣に寝転ぶ美鶴を見た。
「いや、だって……ふっ、ははっ。……美鶴、嫉妬深いんだなって」
「ハァッ?」
更に怒らせてしまったかもしれない。
そう思った俺は、慌てて弁解の言葉を探す。
でもその前に、美鶴が呟いた。
「……そうじゃなかったら、ガキの頃にあんな失敗……しねェだろ」
拗ねている。
と言うよりは、落ち込んでいるのかもしれない。
(こんな美鶴を、知ってる奴なんていないんだろうな……)
いつも、カッコいいともてはやされている男が。
実は嫉妬深くて、子供っぽい。
それを知っているのは……きっと、俺だけ。
「じゃあ、美鶴。……いいこと、教えてやろうか?」
耳元に唇を寄せて、囁く。
「この手のケガは、美鶴から貰ったネックレスを守ろうとして、できたんだ」
俺としては、それだけ美鶴からのプレゼントが嬉しかったって意味合いで言ったんだが。
何故か美鶴はメチャクチャ拗ねた後に、俺のことを抱き締めてきた。
……けっこう、苦しくなるくらいに。
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