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最終話 : 3 (了)
「……で? もう俺様のことは心底好きになったのか?」
俺はまだ、子供の頃にあったことを許したわけじゃ、なかった。
そして当然……今までの嫌がらせを、許したわけでもない。
なのに美鶴は毎週……金曜日の放課後になると、そう訊いてきた。
「だから、まだ不確定……っ! 俺が何年、お前のことで悩んだと思ってるんだよ……っ!」
「何度だって言うが、俺様だって真冬のことで悩んだんだぞ。これでイーブンだろォが」
「そういうところが嫌いなんだよっ!」
鞄で叩こうとすると、あっさりと腕を掴まれる。
そして俺を見下ろして、美鶴は笑った。
「嫌い、ねェ……? なら、何で俺様の部屋に来たワケ?」
「……っ!」
俺のことを見下ろして、美鶴は笑っている。
ヤッパリ俺は、美鶴のことを……大嫌いな幼馴染みって、思い続けると思う。
いちいち嫌がらせばっかりしてくる、この幼馴染みを……。
「そうだ、真冬。……コレ、やるよ」
「……雑貨屋の、紙袋だな」
「この前、女子に連れられて行ったんだが……お前に似てるマスコットがあったぞ」
「それを本人に渡すのかよ」
見覚えのあるロゴが描かれた紙袋を手渡してくる美鶴を見て、思わずげんなりとする。
が、絶対に受け取るという確信しかない美鶴を見ていると……『貰う理由がない』と突き返せない。
紙袋を受け取って、中を見る。
――すると。
「ハッ。軽く騙されてんじゃねェよ。マスコットがあったってのはただの報告。その紙袋はフェイクだ、バカ」
紙袋の中には。
――ネックレスが、入っていた。
「今度は身に着けておけ」
「校則違反……」
「知るか。気になるならうまく隠しながら着けろ」
美鶴は俺の手からネックレスを奪い、すぐに着けさせようとしてくる。
「……そういう強引なとこ、好きじゃない」
「そうかよ」
首筋に、冷たい感触。
ネックレスなんて、生まれて初めて身に着けた。
美鶴は、俺のことなら何でも知っているんだろう。
美鶴が雑貨屋で、俺にプレゼントを買うと思っていたことも。
だからこそ、雑貨屋の紙袋なら警戒しないってことも……全部。
そして。
「素直じゃねェお前のこと、俺様は大好きだけどな」
俺が言えないことを、美鶴はサラリと伝えてきた。
だからこそ……俺はまだ、言えない。
素直に気持ちをぶつけてくる、この幼馴染みが。
嫌がらせをするように、不器用な気持ちをぶつけてきた……この、幼馴染みのことを。
「……俺は大嫌いだよ、ばか……っ」
俺はもう、とっくに。
――大好きなんだ、って。
最終話・嫌がらせが好き 了
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