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オマケ話(2)【ミルクをかけたら大きくなれる?】 1
それは、とある金曜日の放課後。
「……そういえばよ、真冬」
いつものように、生徒玄関で美鶴を待とうと思っていた矢先。
珍しく美鶴の方から、俺を迎えに来てくれて。
そのまま並んで、生徒玄関に向かう。
……その途中で、そう、声をかけられた。
まるで、世間話のようなトーン。
だから俺も、世間話のようなトーンで返す。
「何だよ?」
「真冬ってさ……。あー…………」
「……ん?」
美鶴が、少しだけ言いにくそうに顔をしかめた。
……何だ?
いつも不遜な態度を取って、胸に突き刺さるようなことを平気で言うような美鶴が、いったいどうしたんだろう。
――コイツがなにかを躊躇うなんて、おかしい。
まさか、俺が傷つくようなことをわざと考えているのか?
(いや、そんなこと……ん?)
そこで、ある可能性に気付いた。
――美鶴の、視線だ。
そこから導き出された可能性は、すぐに答えへと変貌した。
「――秋葉から聞いたんだけどよ。……身長。まだ、百七十センチになってねーのか?」
瞬間。
「――言うなっ!」
俺は咄嗟に耳を塞いで、短く叫んだ。
ただでさえ目立つ容姿のコイツといるのに、俺が叫んだことによって更に目立ってしまったとか……それはこの際、置いておこう。
(何で……! 何でコイツに言ったんだよ、徹のやつ!)
……そう。
美鶴の、言うとおりなのだ。
俺の身長は、百六十九センチ。……これは、中学生の頃から変わっていない。
あと……あと、たった一センチ……!
――たった一センチで、憧れの百七十センチになれるというのに……!
俺は去年まで、そんな期待を抱き……ワクワクしていた。
なのに、事件が起きてしまったのだ。
――成長期が終わるという、事件が。
何度測っても、結果は同じ。
俺はその現実が受け止めきれず……何故か外人のように背の高い親友に、一度だけ訊いた。
『――徹、俺の身長取ってっただろ?』
あの日。
初めて徹に、同情の眼差しを向けられた。
……空しい思い出だ。
「……美鶴、コンビニ寄りたい」
「は? 何だよ、背が伸びる薬でも買いたいのか?」
馬鹿にしたかのように、美鶴が笑う。
……さっきは身長の話題を少し躊躇ってくれてたのに、俺があの反応をしたらすぐにこれだ。
「お前のそういうところ、どうかと思うぞ……」
「それでも俺様のことが好きなクセにか?」
「好きじゃないっ!」
反論をしてみても、ただただ虚しいだけ。
何故か上機嫌そうな美鶴は、俺の頭をポンと撫でてきた。
……俺の背が小さいから、撫でやすいとか言いたそうな顔をしている。
だから俺は、美鶴から視線を外す。
……赤くなった顔を見られたくないからでは、断じてない。
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